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下山で膝が痛くなった翌週、登山用品店の売り場でサポーターを手に取った。そんな経験はありませんか。数千円のものから1万円を超える支柱つきまで並んでいて、どれが自分に必要なのか見当がつかない。
先に結論を言います。売り場でよく見る弾性サポーターは、膝にかかる力を減らす道具ではありません。これは階段の昇り降りを測った研究で繰り返し確認されています。にもかかわらず、着けると痛みは減ります。(脚の変形に合わせて荷重を逃がす支柱つきの装具は、目的が別です。後の章で分けて扱います)
理学療法士(PT・リハビリの専門職)として臨床に10年以上携わり、登山では140座以上を歩いてきました。臨床で患者さんにサポーターを勧めたこともあれば、自分が登山を始めたころに使っていた時期もあります。
この記事では、サポーターが実際に何をしているのかを研究データから整理し、そのうえで選び方・着けるタイミング・やめどきまでを扱います。読み終えるころには、売り場で値札ではなく中身を見て選べるようになるはずです。
膝サポーターは、膝の負担を減らしていない
弾性サポーターやお皿タイプを着けても、膝にかかる力そのものは減っていませんでした。
膝のお皿まわりの痛み(膝蓋大腿部痛)を持つ15人に、お皿を支えるタイプのブレースを着けた状態と、着けない状態で階段を昇り降りしてもらった研究があります[1]。MRIで関節の接触面積を測り、その動作を歩行解析にかけて、膝のお皿と大腿骨のあいだの一点に集中する負荷を両方の条件で計算しました。
結果は、ブレースを着けたときの痛みが平均56%減ったのに、階段昇降時にかかる負荷のピークは着けないときと変わりませんでした。理由まで踏み込んでいるのがこの研究の良いところで、接触面積は改善したものの、膝を伸ばす筋の働きと関節にかかる反力がむしろ大きくなっていたのです。
健常者17人の3次元歩行解析でも同じ方向の結果が出ています[2]。市販の弾性サポーターは階段の昇り降りで、膝の内側にかかる負荷の指標をまったく減らしませんでした。
では何も変わっていないのかというと、そうでもありません。同じ研究で、階段を降りるときの膝の左右方向の振れ幅は有意に減っていました。膝蓋大腿関節に変形性関節症のある患者30人が計測用の階段を降りた研究でも、柔らかいサポーターの装着で最大屈曲角と膝の可動範囲がわずかに小さくなっています[3]。
ここまでの3つを一言でまとめます。サポーターを着けても膝にかかる力の大きさは変わらないけれど、膝のぐらつきは小さくなり、痛みは軽くなる。これがいま研究でわかっていることです。

サポーターが変えているのは、力ではなく感覚かもしれない
痛みを減らしている仕組みとして、いま最も有力なのは、膝の「感覚」に働きかけているという説明です。
若い健常者44人を対象にした試験があります[4]。同じ人が着けた条件と着けない条件の両方を試す方法で行われました。目を閉じて膝を決められた角度に合わせる課題を、膝下のコンプレッションウェアの有無で比べたところ、着けたほうが関節の位置を再現する正確さが有意に高くなりました。効果量も大きなものでした。
膝サポーターに関する20件の研究をまとめた文献レビューでも、改善がいちばん多く報告されたのは、健常な膝での固有受容感覚(目を閉じていても自分の関節がどうなっているのかが分かる感覚)と、変形性膝関節症を有する対象者の歩行とバランスでした[5]。装具メーカーが想定している設計思想も同じで、サポーターは「動きを安定させ、痛みを減らし、膝の固有受容感覚を高める」ことを狙った製品として整理されています[6]。
この節も一言でまとめます。締めつけがあると、膝がいまどれくらい曲がっているかを体が正確につかめるようになる。サポーターが変えているのは、力の大きさではなく、この感じ取る精度のほうだという見立てです。

ここが登山と結びつきます。別記事で紹介したように、下り坂を歩いたあとは膝の関節位置覚が鈍ることがわかっています。つまり下山とは、膝の感覚が鈍っていく過程でもあるわけです。
サポーターは、その鈍っていく感覚を外から補っている可能性があります。だから「巻くと安心する」は気のせいではありません。
ただし正直に書くと、ここまで一本につながった形で示した研究はまだありません。位置覚の実験は登山用サポーターを使ったものではなく、痛みが減る理由もひとつに断定はできません。それでも、膝の負担が軽くなったから楽になったのではないという点だけは、取り違えないでください。詳しい下り方の技術は下りで膝を守る歩き方にまとめています。
サポーターとブレースは別物──3つのタイプ
売り場に並んでいるものは、見た目が似ていても目的が3つに分かれます。

装具のレビューでは、膝の装具は次の3種類に整理されています[6]。これは市販品から選ぶときの簡略な目安で、これ以外に手術後や靭帯の不安定性に使う装具もあります。
| タイプ | どんなもの | 何を狙っているか | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| スリーブ(弾性サポーター) | 筒状に履く、伸縮素材のみ | 動きの安定と固有受容感覚 | 漠然と不安がある人、下りで膝が頼りない人 |
| 膝蓋大腿用(お皿タイプ) | お皿の周囲に穴やパッド、ベルト | お皿の軌道を整える | お皿の周囲やお皿の下が痛む人 |
| アンローダー(支柱つき) | 金属支柱とヒンジ、装着に手順が要る | 傷んでいる側にかかる荷重を反対側へ逃がす | O脚で内側が痛む人、X脚で外側が痛む人 |
家庭医向けの実務レビューは、もう一段踏み込んだ使い分けを書いています[7]。膝のお皿の下、腱の部分が痛むタイプにはベルト状のストラップが症状をやわらげうる一方、お皿を安定させるブレースは膝蓋大腿部痛に対して結果がまちまちだ、という整理です。ただし、どこが痛むかだけで装具を決めるのは危うい面があります。痛む場所と診断は一致しないことがあるためです。
アンローダーは市販サポーターの上位互換ではありません。内側型の変形性膝関節症では、痛み・こわばり・機能・生活の質の改善に有益とされます[8]。装着すると歩行中の膝の内側の隙間がわずかに広がる、という精密な計測もあります[9]。
X脚(外反膝)はどうなるのか
同じ理屈が、向きを逆にして当てはまります。
O脚で膝の内側が傷むなら、X脚では外側が傷みます。ですから装具も逆向きで、内側へ逃がすのではなく、外側の荷重を内側へ移す設計になります。前十字靭帯の再建を受けたあとに外側の変形性関節症とX脚傾向がある19人を調べた研究では、この向きのブレースが階段の昇り降りとジャンプ動作で膝の動きと関節にかかるモーメントを実際に変えていました[10]。
ただし、記事の前半をO脚中心に書いてきたのには理由があります。膝の変形性関節症で外側だけが傷んでいる人は、全体の5〜10%程度とされ、数としては少ないためです[11]。市販の装具も内側型向けのほうが多く出回っています。

もうひとつ、登山者に関わるX脚の話は別にあります。着地のたびに膝が内側へ入る動き(動的なknee-in)で、これはお皿まわりの痛みの要因として知られています。ただしこれは骨の形の問題ではなく動きの問題なので、装具ではなく股関節まわりのトレーニングが対処になります。詳しくは登山で膝が痛くなる前に知っておきたいことを読んでください。
いずれにせよ、アンローダーは関節の変形という診断がついている人のための装具です。膝の内側でも外側でも、決まった場所が痛むなら、装具を買う前に整形外科で膝を見てもらってください。
下山で膝が痛い人のサポーターの選び方──まずは薄いスリーブから
はっきりした診断がなく「下りが少し不安」という段階なら、支柱のないスリーブタイプが最初に試しやすい選択肢です。
理由は3つあります。ザックに入る、行動中に着け外しできる、そして膝を曲げる動きを邪魔しない。登山は膝を深く曲げる場面が繰り返し出てくるので、動きを止める方向の装具は歩きにくくなります。
私自身は、登山を始めたばかりのころに下山で膝が痛むことがあり、そのときにサポーターを使っていました。臨床でも、若い方でオーバーユース(使いすぎ)が膝の痛みの原因だと考えたときに勧めたことがあります。どちらもザムスト(ZAMST)の製品でした。いま手元にあるのはEK-5です。
選ぶときに見るのは、次の3点です。
- サイズ——感覚に働きかける装具なので、ずれてしまうと意味が薄れます。測る場所は製品ごとに違うので、パッケージの計測位置を必ず確認する。ザムストの膝用は膝上10cmの太さで測ります
- 締めつけの強さ——きつすぎると数時間の行動中に痛くなります。山で6時間着けていられる強さが基準
- 厚み——ズボンの下に着けるなら薄手。夏に短パンで使うなら通気性

もう一段しっかり支えたいなら
EK-5はサポートレベルが「ミドル」で、膝の左右の動きを抑えるサイドステーが入っています。お皿まわりを支える機能はありません。手軽に着け外しできる範囲で、揺れだけを抑えたい人向けの構成です。
ただ、登山はそれなりに強度の高いスポーツです。標高差1,000mを下るような日は、着地の衝撃が何千回と積み重なります。ここまで書いてきたとおりサポーターが受け止められる力は限られますが、それでも膝の揺れを抑える働きは、下れば下るほど回数を稼ぐことになります。
そこで、もう一段強い選択肢として挙げておきたいのがZK-MOTIONです。サポートレベルは「ハード」で、左右の揺れを強く抑えるステーに加えて、お皿まわりのサポート機能も入っています。ザムストは競技スポーツでの使用と、怪我からの復帰後に支えを続けたい場面を想定した製品として位置づけています。長い下りが続く縦走や、膝を痛めた経験があって復帰の途中にいる人には、こちらのほうが合う場面があります。

登山の膝サポーターはいつ着ける?──下りに入る前に
着けるなら、痛みが出てからより前のほうが理にかなっています。

予防目的の使用には、実は根拠があります。13件のランダム化比較試験をまとめたメタ解析では、2つの試験(227人)から、身体活動中に膝蓋大腿ブレースを着けた群で、膝のお皿まわりの痛みの発症リスクが低下していました(リスク比0.40、95%信頼区間0.22〜0.73)[12]。
ただし、この結果を大きく受け取りすぎないでください。エビデンスの確実性は「低い」と評価されており、対象は軍の新兵と若いアスリートです。登山者にとって最適な着けどきは、まだ確かめられていません。以下は、この研究と現場の感覚から私が組み立てている使い方です。
登山で現実的なのは、こういう使い方です。
- 下りに入る前に着ける——痛くなってから着けるのではなく、山頂で休憩するときに装着する
- 登りは着けない——登りは膝への負担が下りほど大きくないので、汗と締めつけの不快さが上回りやすい
- 下山後も少し着けたままにする——後述しますが、ここに別の意味があります
そして、着けてからのほうが状態が悪いなら外してください。痛みが強まる、膝が腫れてくる、締めつけで歩き方が崩れる——このどれかが出たら、その日はサポーターに頼らず、歩幅を狭めてゆっくり降りるほうが安全です。
下山後に着けたままにする意味
コンプレッションには、回復に関する研究が別にあります。運動で傷んだ筋の回復にコンプレッションウェアを使ったメタ解析では、筋の腫れと主観的なつらさが減り、筋力とパワーの回復が速くなりました[13]。着圧の強さを比べた研究では、高い圧のほうが筋機能の回復に有利でした[14]。
ただし、ここには2つ留保がつきます。ひとつは、筋の壊れ方そのものを示す血液指標(CK)は変わっていないこと。傷が浅くなるのではなく、動かしやすさの戻りが早い、という話です。もうひとつは、これらの研究が使っているのが脚全体を覆うコンプレッションウェアであって、膝サポーターではないこと。膝サポーターで同じ結果が出るかは確かめられていません。下山後の筋肉痛そのものへの対処は登山後の筋肉痛にまとめています。
「頼ると弱くなる」は本当か
サポーターに頼ると筋力が落ちるのかを正面から答えた研究は、見つかりませんでした。
わかっていることから並べます。変形性膝関節症の患者56人を対象にしたランダム化比較試験では、ネオプレン製の柔らかいサポーターを4週間装用した群で、痛み・身体機能・大腿四頭筋の筋力・固有受容感覚のすべてが有意に改善しました[15]。少なくとも4週間の使用で、筋力が落ちるということは起きていません。
区別が要るのは、力を肩代わりするタイプの装具です。バネで膝の伸展を助ける構造の装具では、動作中の大腿四頭筋の活動が実際に下がります。楽になるということは、筋が働かなくて済むということでもあります。伸縮素材だけのスリーブと、機構で支える装具は、この点で立場が違います。
期間についての手がかりもあります。膝の装具管理に関する専門家の合意調査では、膝装具の装用は1日4〜6時間、期間は平均3〜6か月、そして段階的にやめていく(weaning)ことが推奨されました[16]。長期の問題として最も多く挙げられたのは、装具を使い続けられなくなることでした。
総説の立場も一貫しています。膝装具は単独・第一選択の治療にすべきではなく、あくまで補助である、と[17]。

サポーターより先に手をつけたいこと
残念な結果も正直に書きます。運動療法にサポーターを足しても、上乗せの効果は示されていません。

45件のランダム化比較試験(2,023人)を統合した最新のシステマティックレビューでは、膝のお皿まわりの痛みに対して、膝ブレースを運動療法に追加しても、運動療法だけの場合と痛み・機能に差はありませんでした[18]。テーピングやバイオフィードバックも同様でした。エビデンスの確実性は「非常に低い」と評価されていますが、少なくとも「サポーターがトレーニングの代わりになる」とは言えません。
膝にかかる力そのものを下げたいなら、別の手段のほうが数字は大きく出ます。25度の下り坂を男性8人が歩いた実験では、ポールを使うと地面反力・膝関節モーメント・脛骨大腿の圧縮力と剪断力が12〜25%減少しました[19]。理由は、ポールに体重を預けることと、体幹が前傾して膝のモーメントアームが短くなることです。
ただしこれは力学的な指標が下がったという話で、痛みや故障が減ることを確かめた研究ではありません。急な下りという限られた条件での実験でもあります。
優先順位をつけるなら、こうなります。
- 股関節まわりの筋力トレーニング——膝のお皿まわりの痛みでは、保存療法のなかで比較的一貫して効果が示されている
- 下りの歩き方を変える——歩幅・着地・体幹の向き
- トレッキングポール——条件によっては膝にかかる力の指標を下げられる
- サポーター——上の3つを支える補助
これは膝のお皿まわりの痛みを想定した順番です。膝の内側が痛む、腫れを繰り返すといった場合は、そもそも当てはめる枠が違います。
膝痛の全体像は登山で膝が痛くなる前に知っておきたいことにまとめています。サポーターを買うかどうかで迷っているなら、先にそちらを読むほうが遠回りになりません。
支柱つきブレースが要る人、要らない人
「本格的なほうが安心」で選ぶと、たいてい無駄になります。
膝の前十字靭帯の再建術後についても、機能的膝ブレースを日常的に使うことを支持する科学的根拠はないというのが複数のシステマティックレビューの結論です[20]。予防目的のブレースについても、靭帯損傷の発生率や重症度を減らすという証拠は不十分で、研究どうしの結果も一貫していません[21]。
ここで言う支柱つきとは、変形に合わせて膝の荷重を逃がす医療用のアンローダーや、靭帯の不安定性に使う装具のことです。先ほど挙げたZK-MOTIONのように、スポーツ用サポーターに入っているステーとは目的が違います。前者は関節にかかる力の向きを変えるための構造、後者は膝の揺れを抑えるための構造です。
そのうえで、医療用のブレースは医学的な適応がある人のための装具です。膝が抜ける感じがある、靭帯を痛めた既往がある、変形性膝関節症の診断がついている——そういう場合は、装具の種類を自分で選ぶのではなく、整形外科医や理学療法士に相談してください。適応があれば、市販品ではなく体に合わせたものが選ばれます。
逆に、はっきりした診断がなく「下りが少し不安」という段階なら、薄いスリーブから試すのが順当です。

まとめ:膝サポーターの選び方
- 膝への負担は減っていない——階段の研究では痛みが56%減っても負荷は下がっていなかった。代わりに減ったのは膝の揺れ幅
- 有力な説明は感覚——鈍っていく位置感覚を補っている可能性。ただし一本につながる形では示されていない
- タイプは3つ——スリーブ/お皿タイプ/支柱つき。登山で最初に試すなら手軽なほうから始め、足りなければ支えの強いものへ上げる
- サイズと締めつけが命——ずれると意味が薄れる。山で6時間着けていられる強さを基準に
- 着けるのは下りに入る前——ただし痛みが強まる、腫れる、歩き方が崩れるなら外す
- やめどきは自然に来る——専門家の合意も段階的な離脱。迷ったら専門職に相談を
- 主役はトレーニングとポール——サポーターはそれを支える補助
膝サポーターは、膝を守る鎧ではありません。不安な時期を渡りきるための杖です。渡り終えたときに手放せていれば、その買い物は成功だったということになります。
サポーターを含めた持ち物全体は、登山の装備チェックリストで行程や不安な部位に合わせて絞り込めます。膝を選ぶと、サポーターとポールが並んで出てきます。
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