
子どもと山を歩くようになって、下りで「膝が痛い」と言われたとき。大人と同じように「歩幅を狭くして、ゆっくり下りよう」と声をかけていないでしょうか。
その助言は、半分は正しくて、半分は足りません。成長期の膝は、大人とは壊れる場所が違うからです。
私は理学療法士(PT)です。前職の整形外科クリニックで2年、現職でも2年ほど運動器を診てきました。ただし正直に書くと、私が主に診てきたのは高齢者で、成長期の膝は数えるほどです。山は140座以上を歩いてきましたが、上の子はまだ3歳。自分の足で山を歩かせるのは、これからです。
だから今回は、記憶ではなく研究を読み直しました。この記事では、子どもの膝で何が起きるのか、研究で分かっていることと分かっていないこと、痛いと言われたら何を見るのかを整理します。
読み終えるころには、「下りはゆっくり」の先にある、もう少し具体的な備えが決まります。
子どもの膝は、大人と壊れる場所が違う
同じ「膝が痛い」でも、大人と子どもでは原因が違います。 大人は関節の軟骨や腱に出ますが、成長期はまだ骨になりきっていない成長部位で起こります。

大人の膝痛は、関節の軟骨や半月板、腱そのものに出ます。ところが成長期は事情が変わります。骨の端に、まだ骨になりきっていない軟骨の部分が残っているからです。
小児のスポーツ障害をまとめたレビューでは、若い選手の障害の多くは、骨の中で相対的に弱い成長部位で起きると述べられています[1]。骨端(こったん)や骨端隆起と呼ばれる場所です。硬い骨と硬い腱の間に、やわらかい部分がはさまっている。力が集中したとき、そこに負担が集まりやすくなります。
こうして起きるのが骨端症です。骨端症は、腱が骨につく部分を繰り返し引っぱることで生じます[2]。とくに、成長の途中で筋肉と腱が硬くなっている子に多いとされています[2]。
ただし、子どもの膝の痛みが必ず成長部位のものだとは限りません。子どもでも関節の中の問題は起こりますし、股関節の問題が膝の痛みとして出ることもあります。「成長期だから骨端症だろう」と決めてしまわないでください。
下りで引っぱられるのは、腱がつく一点
下り坂では太ももの前がブレーキとして働き、その力が最後に集まる先が、成長期の膝では大人と違います。
下り坂を歩くと、太ももの前(大腿四頭筋)がブレーキとして働きます。筋肉が伸ばされながら力を出す使い方で、膝のお皿まわりにかかる圧も上がります[3]。大人の下山時の膝痛については、下りで膝を守る歩き方にまとめました。
大人はこの力を、関節の面と腱で受け止めます。ところが成長期の膝では、その力が最後に集まる先が違います。
太ももの前の筋肉は、お皿を通って、すねの上のほうの出っぱりにつながっています。脛骨粗面(けいこつそめん)と呼ばれる場所で、成長期にはここがまだ軟骨を含んでいます。下りのたびに、この一点が上へ引っぱられることになります。
これが繰り返されて痛みが出た状態が、オスグッド病です。正式には脛骨粗面の牽引性骨端症といい、子どもの膝の前の痛みでもっとも多い原因のひとつです[4]。男子の12〜15歳にピークがあるとされてきましたが、近年は女子の高強度スポーツ参加が増え、男女差は縮まっていると報告されています[4]。

場所を覚えておくと役に立ちます。お皿の下、すねのいちばん出っぱったところ。オスグッドでは、ここを押したときの痛みが所見のひとつになります。ただし押して痛いことだけで診断がつくものではなく、逆に痛くないことで他の問題が否定できるわけでもありません。あくまで、受診時に伝える手がかりです。
どんな動きで増えているのか——1670人のデータ
子どもに山を歩かせるのが怖くなるかもしれませんが、先に、いちばん大事なことを書いておきます。
子どもの登山や下山を直接調べた研究は、探した範囲で見つかりませんでした。 医学文献を検索しても、子どもの登山に絞ってオスグッドや膝の障害を調べたものは出てきません。ですからこの記事は、スポーツ医学で分かっていることを、登山に当てはめて考えるという立場で書いています。ここから先を、登山の安全性を示したデータとして読まないでください。
そのうえで、負荷の性質を考える手がかりになる研究を紹介します。
デンマークで小学生を5年半追跡した大規模な研究があります[5]。1670人の子どもから、下肢の骨端症が1265件報告されています。内訳を見ると、踵のシーバー病、膝のシンディング・ラーセン・ヨハンソン病、オスグッド病の3つで99%を超えています[5]。
聞き慣れない病名が並びましたが、ここで覚える必要はまったくありません。読み飛ばしてもらって構わないところです。押さえておきたいのは、成長期に脚で起きる骨端症は、ほぼ「踵」か「膝」に集まるという一点だけです。
この研究には、登山を考えるうえで見逃せない結果があります。
並べてみると、負荷の性質が見えてきます。跳ぶ、急に止まる、方向を切り返す。腱を一瞬で強く引っぱる動きが集中している競技で増えていました。体育の授業のように、走る・歩くが中心の活動では増えていません。
ここから言えるのは、骨端症は運動量そのものより、動きの種類と結びついていたということまでです。歩く登山がこの結果のどちら側に当たるのかは、登山を調べた研究がない以上、分かりません。下りが膝に負担のかかる動作であることは変わらないので、「登山なら大丈夫」とは読まないでください。

ただし、油断できない数字もあります。同じ研究で、症状が続いた期間は中央値で3〜4週間、長い例では45週間に及んでいました[5]。一度こじらせると、季節をまたぐということです。
それでも下りで用心したい、3つの状況
歩く登山が高リスクではないとしても、当てはまる子には備えが要ります。3つに絞ります。

①すでにオスグッドと言われている子
これがいちばん大事です。発症している膝は、下りで悪化しやすい状態にあります。
126人を追跡したドイツの研究では、診断時の平均年齢は12.8歳(男子13.2歳、女子11.4歳)でした[6]。注目したいのは経過です。症状が続いた期間は平均19.1か月、半数で痛みがなくなったのは16か月後でした[6]。
さらに、78.8%の人が、膝をついたときや出っぱりを直接触ったときの痛みを残していたと報告されています[6]。
登山でこれが問題になる場面を思い浮かべてください。岩場で膝をつく。休憩で膝立ちになる。靴紐を結び直す。下山中は、膝をつく機会が意外と多い。オスグッドと言われている子と歩く日は、この点だけでも先に共有しておくと違います。
②成長期の真っただ中にいる子
背が急に伸びている時期は、骨の伸びに筋肉の長さが追いつかず、太ももの前が引っぱられた状態になります。
日本の12〜13歳の男子サッカー選手302人を6か月追った研究では、発症を予測する因子として成長の段階に加えて、太ももの前の硬さとふくらはぎの硬さが挙げられました[7]。金沢大学の研究も男子サッカー選手が対象で、無症状だった選手を1年追跡して14.3%が発症し、危険因子として大腿四頭筋の硬さが確認されています[8]。
どちらも競技を続けている男子選手のデータで、家族で山を歩く子にそのまま当てはまる数字ではありません。それでも、筋肉の硬さが関わっているという方向はここから受け取れます。
背が伸びた、ズボンの丈が急に合わなくなった。そういう時期は、太ももの前とふくらはぎが硬くなっていないかを見ておく合図として使えます。
③体格に対して、荷物が重い子
まず、オスグッドの危険因子として体重が挙げられています[4]。ここは研究の話です。
一方で荷物の重さについては、オスグッドとの関係を調べた研究を見つけられませんでした。ですので以下は、膝の障害予防としてではなく、登山の安全と体への負担の話として読んでください。
参考になるのは通学かばんの研究です。かつては体重の15〜20%を超えるかばんは腰痛と関連すると報告されていました[9][10]。ただしその後、7万人規模のレビューや9,000人分の個人データを使ったメタ解析では、かばんの重さとのちの腰痛の関連は確認されていません。詳しくは子どもは何キロ背負える?で整理しました。いずれにせよ腰痛の話であって膝の話ではなく、登山のザックを調べたものでもありません。
それでも、背負わせる重さの上限をどこかに置いておくのは意味があります。重ければ歩き方が変わり、疲れも早く来る。疲れて足が上がらなくなることは、下りでの転倒に直結します。
配分の考え方はひとつです。水と行動食、防寒着といった「自分ですぐ使うもの」を子どもに持たせ、残りは親が背負う。 子どものザックの重さは、行動中でも足せるし減らせます。
「成長痛だから様子を見よう」で片づけない
いわゆる成長痛には、2〜12歳に多く、両脚に出て、夕方から夜にかけて痛むという特徴があります。当てはまらない痛みを成長痛で片づけないでください。
子どもが脚を痛がると、「成長痛でしょう」と言われることがあります。この言葉が、確認を止めてしまうことがあります。
いわゆる成長痛には、はっきりした特徴があります。2〜12歳に多く、両脚に出て、夕方から夜にかけて痛み、日中は元気に動けます[11]。原因はよく分かっておらず、経過は良好とされています[11]。
そして、名前とは裏腹の事実があります。臨床レビューによれば、成長痛がもっとも多い時期は、身体が急に伸びる時期と一致していません[12]。「成長しているから痛い」という説明は、実は根拠が弱いのです。
なぜここまで書くのか。「成長痛」という説明が確認を止めてしまった報告が、実際にあるからです。ある症例報告では、9歳の女の子が太ももの痛みを「成長痛」と説明され、別の病気(慢性非細菌性骨髄炎)の診断にたどり着くまでに20か月がかかっています[13]。
まれな病気です。この病気を心配してほしいのではありません。伝えたいのは、「成長痛」は確認をやめてよい理由にはならないということだけです。

親が山に行く前と当日にできること
最後に、実際に何をするかをまとめます。難しいことはひとつもありません。
前日までにやること
オスグッドの予防策として挙げられているのは、大腿四頭筋とハムストリングスのストレッチです[4]。あわせて、先に触れた研究ではふくらはぎの硬さも発症を予測する因子に挙がっていました[7]。
特別な器具は要りません。3か所とも家でできます。
- 太ももの前:うつ伏せで片方の膝を曲げ、同じ側の手で足首を持ってかかとをお尻に近づけます。腰が反らないよう、おへその下にタオルを1枚はさむと安定します
- 太ももの裏:あお向けで片脚を上げ、両手で太ももの裏を支えたまま、膝をゆっくり伸ばしていきます。反対の脚は床につけたままにします
- ふくらはぎ:壁に手をついて片脚を後ろに引き、後ろの脚の膝を伸ばしたまま、かかとを床につけます
どれも痛みが出ない範囲で、20〜30秒ずつ。反動をつけて弾ませないことだけ守ってください。
そもそも下りで膝に負担をためないためには、当日の行程そのものを短くしておくのが確実です。年齢別の行動時間の考え方は子どもは登山で何km歩ける?にまとめました。

ただし、これは「やれば防げる」と証明された方法ではありません。骨端症の治療や予防は、専門家の合意にもとづく部分が大きく、質の高い臨床試験は不足しているとされています[2]。それでも、硬さが危険因子として繰り返し挙がっている以上[4][7][8]、やっておいて損のない部類だと考えています。
登山の前日だけやっても意味は薄いので、習慣にするほうが現実的です。大人向けですが、伸ばす場所と時間の目安は登山前後のストレッチが参考になります。
当日の下りでやること
以下は研究にもとづく数字ではなく、私が下りで実際にやっていることです。子ども向けに調整して書きます。
- 歩幅を狭くする。 一歩が大きいほど、着地でブレーキにかかる力が増えます
- 痛くなる前に休ませる。 下りに入ったら早めに一度止まり、その後も間隔を詰める
- 膝をつく場面を減らす。 休憩は座れる場所を選ぶ
- 靴紐を下りの前に締め直す。 靴の中で足が前に滑ると、着地の衝撃が増えます
「痛い」と言われたときの対応
その日は下山を優先し、痛みを我慢させて歩き続けさせない。これに尽きます。骨端症は、いったん症状が出ると長引くことがあります[5][6]。その日に少し急ぐことと、数週間から数か月動けなくなることを天秤にかける場面ではありません。
そして、どこがどう痛かったかを覚えておいてください。片脚か両脚か。押して痛い一点があるか。歩いているときか、夜か。 これを伝えられると、受診したときの話が早く進みます。

まとめ:下りの助言は、大人向けのままにしない
- 成長期の障害の多くは、骨の中の弱い成長部位で起きる[1]。ただし子どもの膝痛が必ずそこだとは限らない
- 下りのブレーキは太ももの前が担い、その力はすねの出っぱり(脛骨粗面)に集まる。ここの痛みがオスグッド[3][4]
- 子どもの登山を直接調べた研究は見つからない。以下はスポーツ医学からの当てはめとして読む
- 1670人の追跡で増えたのは跳躍・切り返し系の競技で、体育の授業では増えなかった[5]。運動量より動きの種類と結びついていた
- 症状は中央値3〜4週、長ければ45週[5]。発症例では平均19.1か月続き、78.8%に膝をついたときの痛みが残った[6]
- 用心したいのは、すでに痛みがある子・成長スパート中の子・体格に対して荷物が重い子[4][7][8]
- 成長痛は両脚・夕方から夜・日中は元気が典型[11]。ピーク時期は急成長期と一致しない[12]。片側・一点・運動中なら受診を検討する
- ストレッチは証明された予防法ではないが、硬さが危険因子として挙がる以上やっておく価値はある[2][4]
子どもと山を歩ける時間は、そう長く続くものではありません。膝を痛めて「山はもういい」となってしまうのが、いちばんもったいない結末です。
次に一緒に下るときは、痛いと言われたら、その日は行程を切り上げる。まず、そこだけ決めておいてください。
参考文献
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