登山口までの道は、くねくねと続く山道のことがほとんどです。1時間以上カーブを曲がり続けて、着いた途端に子どもが吐いてしまったら、その日の山はそこで終わりかねません。子連れ登山では、山に着く前の車の中に最初の関門があります。

先に結論です。前の景色が見える座り方にする、車内で画面や絵本を見せない、運転手がブレーキとハンドルを丁寧に扱う、前の晩にしっかり寝かせる。この4つで、薬に頼る前にできることの大半がそろいます。酔い止めは年齢の下限が製品ごとに決まっているので、使う前に必ず確認してください。

私は理学療法士(PT)として10年以上、臨床でめまいの訴えを診てきました。回るめまいか、ふわふわするめまいかを聞き分けて原因を探り、良性発作性頭位めまい症(頭の向きで起こるめまい)の治療も行っています。車酔いのしくみを患者さんに説明することもあります。山はこれまで140座以上に登ってきました。

家では2人の子の父親です。わが家の2人は、まだ車で酔ったことがありません。ただ、2人ともちょうど車酔いが起こりやすい年齢に入ったところです。だからこそ、酔ってから慌てるのではなく、先に備えておくことにしました。

この記事では、子どもが車に酔いやすい年齢、車酔いのしくみ、出発前と走行中にできること、酔ってしまったときの対応、登山口に着いても治らない吐き気の見分け方を、研究データをもとに順に説明します。最後に、大人の車酔い対策もまとめました。読み終えたら、次の山行の車内で試すことを1つ決めてください。

登山口までの山道で子どもの車酔い対策 紅葉の谷をヘアピンカーブで上っていく山道と車の水彩画 前を見せる・画面を見せない・揺らさない運転を理学療法士が解説 ヤマカルテ

子どもの車酔いは2〜12歳が最も起こりやすい

子どもの車酔いは、2〜12歳ごろが最も起こりやすい時期とされています[1]。

子どもの車酔いは2〜12歳が最も起こりやすい ブラジルの7〜12歳831人の調査で乗り物で酔った経験は車43.4%・バス43.2%・ブランコ11.7%・観覧車11.6% 図解 ヤマカルテ

ブラジルの7〜12歳の子ども831人を調べた研究では、4割を超える子(43.4%)が、車で酔った経験ありと答えています[2]。バスでも43.2%で、遊園地のブランコ(11.7%)や観覧車(11.6%)を大きく上回っています。半分近い子が経験するので、珍しいことではありません。

2歳未満なら絶対に酔わない、というわけでもありません。子どもの平衡感覚の専門外来の記録では、重い乗り物酔いが乳児期から始まっていた例もありました[3]。

毎回ひどく吐く子は、一度相談しておく

同じ専門外来の記録では、重い乗り物酔いの子23人のうち、約半数に片頭痛に関連する病気がありました[3]。平衡感覚の検査で異常が見つかった子もいます。

数十人の記録なので、「酔いやすい子は病気」とは言えません。ただ、毎回ひどく吐く、短い距離でも酔うのであれば、山の計画とは別に一度小児科で相談しておくと安心です。

車酔いは「目」と「耳の奥」の情報がずれて起きる

車酔いは、目から入る情報と、耳の奥にある平衡感覚の情報が食い違うことで起きると考えられています[4][5]。

車酔いは目と耳の奥の情報のずれで起きる チャイルドシートで絵本を見る子どもの目は何も動いていない、耳の奥は体が揺れていると伝え、脳でずれが生じて車酔いになるしくみ 対策は情報をそろえること 図解 ヤマカルテ

耳の奥には、体の傾きや加速を感じとるセンサーがあります。車がカーブを曲がると、このセンサーは「体が横に揺さぶられている」と脳に伝えます。ところが、車内のシートや手元の絵本を見ている目は「何も動いていない」と伝えます。2つの情報が合わないことが、脳にとっての負担になります。

山道は、この「ずれ」が起きやすい条件がそろっています。左右のカーブが続き、上り下りで前後にも揺さぶられるからです。揺れが大きいほど酔いの重さが増すことは、実験でも確かめられています[6]。

子どもの車酔い予防|出発前は前の晩に寝かせ、食べすぎも空腹も避ける

出発前の対策の中心は、前の晩にしっかり寝かせることです。睡眠を2晩続けて4時間に減らした大人の実験では、揺れによる酔いが強まり、揺れに慣れて酔わなくなるのも遅くなりました[7]。

出発前にできる子どもの車酔い予防4つのチェック 前の晩は早く寝かせる・朝食は抜かず軽めに・着替えとタオルとエチケット袋を手の届く場所に・酔い止めは乗る30分前で年齢確認が先 図解 ヤマカルテ

子連れ登山は早朝出発になりがちです。出発時刻から逆算して、前の晩はいつもより早く寝かせることを計画に入れておきましょう。車中で寝てくれるかどうかを当てにして、前夜の睡眠を削るのはおすすめしません。

食事については、研究ではっきりした答えが出ていません。子ども用の酔い止めの説明書には、食べすぎと空腹の両方を避けるようにと書かれています[8][9]。出発前は軽めの朝食をとらせ、車内では様子を見ながら少しずつ食べさせるのが無難です。

走行中の車酔い予防|前を見せ、画面を見せず、揺らさない

走行中の対策の柱は、子どもに車の前の景色を見せることです。

走行中の車酔い予防3つの柱 後部座席のチャイルドシートから前の景色を見せる(前が見えない34.6%・よく見える12.7%)、画面や絵本は見せず目を使わない遊びに、急ブレーキ・急発進・急ハンドルを避けて揺らさない運転 図解 ヤマカルテ

3,256人のバスの乗客を調べた調査では、前の道路がまったく見えない人の34.6%が気分の悪さを訴え、前がとてもよく見える人の12.7%の約3倍でした[10]。実際の車を使った実験でも、前の景色が見える条件で酔いが減っています[11]。前の道路が見えると、目にも「曲がっている」ことが伝わり、耳の奥の情報と合いやすくなるからです。

チャイルドシートでも、前が見える工夫はできる

チャイルドシートは後部座席に取りつけるので、大人のようには前を見られません。それでも、できる工夫はあります。

ただし、優先するのは安全な取りつけです。前が見えるかどうかより、車とチャイルドシートの取扱説明書に従うことが先です。後ろ向きで使う時期の子を、景色のために前向きにしないでください。そのうえで、次のような工夫を取り入れます。

  • 説明書どおりに取りつけられる座席の中から、前の窓が見えやすい位置を選ぶ
  • 子どもの視界をふさぐ荷物を、前席の背もたれに掛けない
  • 「次は右に曲がるよ」「あの山、見える?」と声をかけて、前を見るきっかけをつくる
  • 窓を少し開けて、車内に新しい空気を入れる[9]

動画・ゲーム・絵本は見せない

車内で画面や絵本を見せるのは、車酔いを招きやすい過ごし方です。

車の中に視線を向けると、目は「止まっている」車内しか見ていません。大人を乗せた車でジグザグ走行をくり返し、車内だけが見える条件と車の外が見える条件を比べた実験では、車内だけが見える条件のほうが症状が強く出て、強まるのも速く、途中でやめた人も66%と多い結果でした(外が見える条件は33%)[12]。

前の道路をその場で映した映像を車内の画面で見せても、この実験では酔いは減りませんでした[11]。画面の中の景色ではなく、窓の外の本物の景色を見せることが大事です。

退屈させないためには、目を使わない遊びが向いています。目隠しをした大人を回転させながら、音声だけの課題で気をそらした実験では、酔いが19%軽くなりました[13]。子どもの車内で同じ効果が確かめられたわけではありませんが、しりとり、歌、なぞなぞ、音声だけのお話などは試す価値があります。

運転手は「揺らさない運転」を

運転手にできる最大の対策は、急ブレーキ・急発進・急ハンドルを避けることです。揺れが大きいほど、酔いは重くなります[6]。

山道では、カーブの手前で十分に減速し、曲がりながらブレーキを踏まないようにします。後部座席の子どもは前が見えにくいぶん、揺れが予測できません。大人が乗っている以上に、穏やかな運転を心がけてください。

子どもの酔い止めは何歳から?製品ごとに使える年齢が違う

市販の子ども用の酔い止めは、製品によって3歳未満または5歳未満は服用しないと決められています。

子どもの酔い止めは何歳から 確認した市販薬3製品では3歳未満は使える製品なし・3〜4歳は3製品中2製品・5〜10歳は3製品すべて 飲むのは乗る30分前で年齢は箱と添付文書で確認 図解 ヤマカルテ

PMDA(医薬品医療機器総合機構)で公開されている添付文書(薬の公式の説明書)では、次のとおりでした。

製品使える年齢服用しない年齢飲むタイミング
センパア Kidsドリンク3〜10歳3歳未満乗る30分前
こどもティメル錠3〜14歳3歳未満乗る30分前
トラベルミン・ジュニア5〜14歳5歳未満乗る30分前

出典は[8][14][9]です(2026年10月に確認)。

わが家の下の子は、どの製品も使えない年齢です。上の子も、使える製品が限られます。小さい子ほど、薬以外の工夫が中心になるということです。

酔い止めの成分には、眠気が出るものが多くあります。大人を対象にした研究のまとめでは、昔からある抗ヒスタミン薬で酔いの予防効果が見られた一方、眠気も増えていました[15]。同じまとめでは、子どもを対象にした研究は見つかっていません。

手首のツボを押すバンドは、効果がはっきりしていません。酔いが軽くなったという実験がある一方で[16]、正しく着けても酔いを防げなかった実験もあります[17]。

酔ってしまったら|早めに止めて、外の空気と遠くの景色

子どもが酔ったら、吐く前に車を止めて外に出し、遠くの景色を見せて休ませます。

吐く前のサインに気づいたら早めに止める だるそう・あくび・機嫌が悪い・つばを飲み込む・おやつをいやがる5つのサインと、車を止めて遠くの景色を見て顔色が戻るまで休む対応 図解 ヤマカルテ

小さい子は「気持ち悪い」と言葉で伝えられないことがあります。車酔いでは、吐き気より先に次のような変化が出ることがあります[4][18]。

  • だるそうにする、元気がなくなる
  • あくびやため息が増える、眠そうにする
  • 機嫌が悪くなる、ぐずる
  • つばが増えて、何度も飲み込む
  • おやつや飲み物をいやがる

こうした様子に気づいたら、安全に止まれる場所を探して早めに休みましょう。吐いてしまったら、口をゆすがせ、汚れた服から着替えさせてから、水分を少しずつとらせます。

休憩は、顔色が戻るまでとる

気分が少し良くなったところで、すぐに走り出さないようにしましょう。顔色と元気が戻るまで休んでから、ゆっくり出発します。そのあとの山道は、さらに穏やかな運転を心がけます。

登山口に着いても吐き気が治らないときは、車酔い以外を疑う

車酔いの吐き気は、ふつう車を降りて休むと少しずつ軽くなります。登山口に着いて休んでも吐き気が続く、くり返し吐くときは、車酔い以外の原因を考えます。

登山口に着いても治らない吐き気は車酔いと決めつけない 休むと軽くなるなら休む、続く・くり返し吐く・頭痛・熱ならその日は登らず医療機関へ、反応しない・けいれんは119番 標高2,000mを超える登山口では高山病も 図解 ヤマカルテ

ただし、眠気やだるさは、吐き気が治まったあとも残ることがあります[19]。眠そうにしているだけで、顔色がよく、水分もとれていて、呼びかけにいつもどおり反応するなら、もう少し休んで様子を見てください。休んでも良くならない、悪くなっていくときは、無理に登らないでください。

標高の高い登山口では、高山病のこともある

標高2,000mを超えるような登山口まで車で一気に上がった場合は、高山病の可能性も頭に入れておきます。高山病の症状は、ふつう高い場所に着いてから2〜12時間ほどで出はじめます[20]。着いた直後の吐き気は車酔いのことが多いものの、登っている途中や山頂、その晩に出てくることもあります。小さい子の高山病は、頭痛を言葉で訴えられず、ぐったりする・食べない・機嫌が悪い・泣き続けるといった形でしか現れないことがあります。

車酔いとの見分けがつかないときは、登らずに標高を下げるのが原則です。子どもの高山病の見抜き方は、「赤ちゃん・子どもの登山は標高何mまで?月齢別にみる高山病の目安」で詳しく解説しています。

頭痛・熱・ぐったりは、受診を考えるサイン

次のような様子があれば、山行はやめて医療機関を受診してください。

  • 休んでも吐き気が治まらない、何度も吐く
  • 強い頭痛を訴える
  • 熱がある、下痢をしている
  • ぐったりしている

呼びかけに反応しない、反応がおかしい、けいれんしているときは、受診を待たずに119番に通報してください。

大人の車酔い対策|運転手が酔いにくい理由と、わが家の工夫

運転手は、同乗者より車酔いしにくいことが分かっています。動きを自分で操っている人は、同じ揺れを受けても酔いにくいことが実験で示されているからです[21]。この実験では、頭の動き・見えるもの・揺れの予測しやすさを両方の人でそろえても、動きを操っている人のほうが酔いませんでした。自分で動きを操っていること自体が、運転手の酔いにくさの理由の1つと考えられています。

大人の車酔い対策 運転手が酔いにくい理由と、酔いやすい人が運転する・スマートフォンを見ない・空腹で乗らないわが家の工夫、寝不足の日は運転手でも酔う 図解 ヤマカルテ

わが家では、妻が車酔いしやすい体質です。そのため、なるべく妻が運転手になるようにしています。妻が助手席に座る日は、事前に市販の酔い止めを飲んでいます。ほかにも、次のことを夫婦で気をつけています。

  • 走行中はスマートフォンを見ない
  • 運転手は急停車・急発進・急ハンドルを避ける
  • 空腹で車に乗らない

寝不足の日は、運転手でも酔う

普段は車酔いしない私も、自分の運転で酔ったことがあります。寝不足気味の日に、岐阜県の天蓋山(てんがいざん)へ向かう山道を30分近く走ったときでした。

「運転手は酔いにくい」という原則も、寝不足には勝てませんでした。睡眠不足と揺れが重なると酔いが強まることは、実験でも示されています[7]。子どもの前夜の睡眠と同じく、運転する大人の睡眠も車酔い対策の一部です。

運転手が酔い止めを飲むのは避けてください。添付文書には、服用後に乗り物や機械の運転をしないよう書かれています[9]。

まとめ:車酔い対策は、目と耳の奥のずれを減らすこと

  • 子どもの車酔いは2〜12歳が最も起こりやすい。7〜12歳の子の43.4%が車で酔った経験あり
  • 車酔いは、目と耳の奥の情報が食い違うことで起きる
  • 出発前は、前の晩に早く寝かせる。朝食は抜かず軽めに
  • 走行中は、前の景色を見せる・画面や絵本を見せない・揺らさない運転
  • 子ども用の酔い止めは、製品ごとに3歳未満または5歳未満は服用しない。使う前に年齢を確認し、迷ったら薬剤師に相談
  • 酔ったら早めに止めて、顔色が戻るまで休む
  • 登山口で休んでも治らない吐き気は、高山病などを疑う
  • 運転手は酔いにくいが、寝不足の日は例外

山に着く前の車内は、子連れ登山でいちばん最初に迎える関門です。前を見せる、画面をしまう、丁寧に運転する。どれも今日から変えられることばかりです。次の山行では、まず子どものチャイルドシートから前の窓が見えるかどうか、確かめてみてください。

あわせて読みたい:子どもと山で起こりやすいトラブルを場面ごとにまとめた「子連れ登山の注意点・安全対策|子どもに多いトラブルと場面別の備え」も参考にしてください。

参考文献

  1. Schmäl, 2013. Neuronal mechanisms and the treatment of motion sickness. Pharmacology.
  2. Henriques et al., 2014. Motion sickness prevalence in school children. European Journal of Pediatrics.
  3. Lipson et al., 2020. Severe motion sickness in infants and children. European Journal of Paediatric Neurology.
  4. Leung & Hon, 2019. Motion sickness: an overview. Drugs in Context.
  5. Zhang et al., 2016. Motion Sickness: Current Knowledge and Recent Advance. CNS Neuroscience & Therapeutics.
  6. Irmak et al., 2022. Amplitude and Temporal Dynamics of Motion Sickness. Frontiers in Systems Neuroscience.
  7. Kaplan et al., 2017. The influence of sleep deprivation and oscillating motion on sleepiness, motion sickness, and cognitive and motor performance. Autonomic Neuroscience.
  8. 大正製薬. センパア Kidsドリンク 添付文書. PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索.
  9. エーザイ. トラベルミン・ジュニア 添付文書. PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索.
  10. Turner & Griffin, 1999. Motion sickness in public road transport: passenger behavior and susceptibility. Ergonomics.
  11. Griffin & Newman, 2004. Visual field effects on motion sickness in cars. Aviation, Space, and Environmental Medicine.
  12. Irmak et al., 2021. Objective and subjective responses to motion sickness: the group and the individual. Experimental Brain Research.
  13. Bos, 2015. Less sickness with more motion and/or mental distraction. Journal of Vestibular Research.
  14. 協和薬品工業. こどもティメル錠 添付文書(2016年9月改訂). PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 情報検索.
  15. Karrim et al., 2022. Antihistamines for motion sickness. Cochrane Database of Systematic Reviews.
  16. Hu et al., 1995. P6 acupressure reduces symptoms of vection-induced motion sickness. Aviation, Space, and Environmental Medicine.
  17. Miller & Muth, 2004. Efficacy of acupressure and acustimulation bands for the prevention of motion sickness. Aviation, Space, and Environmental Medicine.
  18. Brainard & Gresham, 2014. Prevention and treatment of motion sickness. American Family Physician.
  19. Lawson & Mead, 1998. The sopite syndrome revisited: drowsiness and mood changes during real or apparent motion. Acta Astronautica.
  20. CDC, 2025. High Elevation Travel & Altitude Illness. CDC Yellow Book.
  21. Rolnick & Lubow, 1991. Why is the driver rarely motion sick? The role of controllability in motion sickness. Ergonomics.