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登山用品店の靴下売り場で、値札を見て手が止まったことはありませんか。1足3,000円を超えるメリノウールと、数百円のスポーツソックス。見た目はそれほど変わらないのに、値段は10倍近く違います。
理学療法士(PT・リハビリの専門職)として研究を読み、140座以上を歩いてきた立場から言うと、この売り場でいちばん迷いやすい「メリノか化繊か」は、意外にも決め手になりませんでした。長距離を歩いたハイカー203人を調べた研究では、素材の違いによる差は確認されなかったのです。
代わりにはっきり差が出たのが、濡らさないこと、厚み、そして組み合わせ方でした。この記事では、マメができる仕組みから買い替えの目安までを研究データで整理します。読み終えるころには、売り場で何を見て選べばよいかが、自分の言葉で説明できるようになるはずです。
登山用靴下の役割──マメは「表面のこすれ」だけでは説明できない
マメは、皮膚が表面でこすれてできる、という説明だけでは足りません。近年は、皮膚の内側で起きる「ずれ」の繰り返しが重視されています。

長く言われてきたのは、熱・湿気・摩擦の3つがマメを作るという説明でした。これに対して2024年に出た総説は、別の見方を提案しています[1]。マメを生むのは繰り返しのずれ変形(shear deformation)であり、その要素は3つ。骨の動き、大きな摩擦力、そしてずれが何度も繰り返されることです。この総説は「皮膚表面のこすれは、マメの発生機序ではない」とまで書いています。
ただし、これは新しく提案された考え方であって、これで決着がついたわけではありません。同じ総説も、汗や湿り気が摩擦力を通じて関わることは認めています。表面のこすれだけを見ていると足りない、というくらいに受け取るのがちょうどよいところです。
もう少し中で何が起きているかを見てみましょう。古典的な研究では、摩擦力によって表皮の有棘層(ゆうきょくそう)というレベルで細胞が機械的に引きはがされ、その隙間に血漿に似た液がたまるとされています[2]。皮膚の表面ではなく、少し深いところで層が裂けているわけです。
つまり靴下に期待できる仕事は、足と靴のあいだの摩擦力を下げることが中心になります。この視点で見ると、売り場の情報の何が本質で何がそうでないかが見えてきます。
濡れた登山用靴下は、マメと強く関連していた
靴下選びで差がつきやすいのは、素材でも値段でもなく「濡らさないこと」です。
スペインの巡礼路で、22か国203人のハイカーを山小屋で面接・診察した研究があります[3]。平均253.7kmを歩いた時点で、68.5%の人にマメができていました。この研究で統計的にはっきりした関連が出たのは、ただ1つ。濡れた靴下で歩いた人は、マメができていた割合が1.94倍でした(95%信頼区間1.04〜3.61)。
観察研究なので、「濡れたから」マメができたと言い切ることはできません。歩き方や距離など、別の要因が絡んでいる可能性は残ります。
実験でも裏づけがあります。かかとの皮膚を水に浸して含水量を上げた条件では、荷重をかけたときの温度上昇が有意に速くなりました[4]。温度上昇の速さはマメのできやすさの指標として使われています。濡れた皮膚は、同じ歩き方でも傷みやすくなる可能性があるということです。
雨で濡れる日だけの話ではありません。汗でも足は濡れます。1日歩けば靴の中はたいてい湿るので、替えを持っておくと打つ手が増えます。

登山用靴下はメリノか化繊か──素材は決め手ではなかった
少なくともこの研究では、メリノウールと化学繊維のどちらを選んでも、マメのできやすさは変わりませんでした。
先ほどの203人の研究には続きがあります。参加者の74.2%が化繊中心、25.9%が天然繊維中心の靴下を履いていました。年齢や距離の影響を除いて解析した結果、天然繊維と化繊の比率はマメの有無と関係していませんでした[3]。研究者たちの結論も「素材ではなく、濡らさないこと」です。
ここで見ているのは繊維の割合であって、特定の製品どうしを比べたものではありません。編み方や厚みまで含めた製品差までは、この研究では分かりません。
ただし、まったく差が出ないわけではありません。109人のハイカーに登山用の靴下と普通の靴下を配って歩いてもらった試験では、無傷だった人の割合が登山用ソックス群で有意に高くなりました[5]。足の表面温度も、登山用のほうが安定していました。
この2つを並べると、選び方の軸が見えてきます。
- 登山用として作られているか——ここには差がある
- メリノか化繊か——ここには差が出ていない
私自身、以前はスマートウールを長く使っていました。履き心地は良く、いまでも悪い選択だとは思いません。ただ、メリノだからマメが減ると人に勧める根拠は、手元にないというのが正直なところです。
では素材選びは無意味なのか──マメ以外で差が出るところ
ここまでの話は「マメができるかどうか」に限った話です。快適さという面では、素材の違いははっきり出ます。
| 見るところ | メリノウール | 化繊(ポリエステルなど) |
|---|---|---|
| におい | 溜め込みにくく、臭いにくい | 皮脂が残りやすく、臭いやすい |
| 濡れたときの保温 | 落ち方がゆるやか | 落ち方が大きい |
| 乾きやすさ | 乾きにくい | 乾きやすい |
| 摩耗への強さ | 単体では弱く、ナイロン混が主流 | 強い |
| 価格 | 高い | 安い |
この表の読み方に、ひとつ注意があります。「におい」と「濡れたときの保温」は、ベースレイヤー(肌着)を対象にした研究で確かめられたものです。足で同じ差が出るかを直接調べた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。乾きやすさと耐久性は素材の一般的な性質で、製品の編み方や混紡の割合によって変わります。
そのうえで、使い分けの目安はこうなります。
- 小屋泊やテント泊で洗えない日が続く → メリノ混が快適。においを溜め込みにくい特性が実用面で大きい
- 日帰り中心で、帰ってすぐ洗って乾かす → 化繊で十分。乾きの速さと価格で有利
- 冬や、停滞の可能性がある山行 → メリノ混。濡れても保温の落ち方がゆるやか
ただし、どちらを選んでもマメの数は変わらなかったというのが前半の結論です。素材は快適さを決める要素であって、マメ対策の本命ではありません。優先順位を間違えないでください。

なお、この「におい」や「濡れたときの保温」の根拠、そして上半身での使い分けは登山のベースレイヤー メリノと化繊の違いで研究とともに詳しく整理しています。上半身は汗の量も冷え方も足とは条件が異なるので、そのまま足に当てはめず、参考として読んでください。
登山用靴下の厚さ──保温だけでなく、足裏の圧にも関わる
厚手の靴下に期待できるのは保温だけではありません。足裏にかかる圧を下げる働きも報告されています。
これを数字で示したのは、意外にも糖尿病の足を守る研究でした[6]。神経障害のある患者27人に、裸足・本人の靴下・パッド入りの靴下の3条件で歩いてもらい、足裏の圧を測っています。結果は次のとおりでした。
- 本人が普段履いている靴下では、足裏の圧はほとんど変わらなかった
- パッド入りの靴下は、前足部のピーク圧を平均26%下げた
ここは慎重に読む必要があります。対象は神経障害のある糖尿病の患者27人で、登山者ではありません。使われたのも研究用の特製ソックスで、店頭の登山用靴下と同じではありません。「厚手なら足裏の圧が26%下がる」と読み替えるのは行きすぎです。
それでも、厚みのある作りは圧を下げうるが、普通の靴下では変わらなかったという対比は、売り場で厚手を手に取る理由のひとつになります。市販の登山用靴下で同じことを確かめた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。
私自身、この厚みの意味を体で知ったのは初めてのテント泊でした。鷲羽岳・水晶岳のテント泊で、重い装備と長い距離が重なり、マメができたうえに指先がしびれました。歩けなくなるほどではありませんでしたが、下山後もしばらく違和感が残りました。
厚み選びは、靴とセットで考えるものです。靴下だけを厚くしても、足の環境は良くなりません。

二重履きは効くのか──海兵隊357人の答え
薄いライナーを1枚足すだけでは、マメの数は減りませんでした。ただし重症化は防いでいました。
これを調べたのが、米海兵隊の新兵357人を3つのグループに分けた試験です[7]。結果を並べると、通説とはかなり違う姿が見えます。
| 履き方 | マメができた人 | 受診が必要な重症マメ |
|---|---|---|
| 標準の靴下1枚 | 69% | 24% |
| 標準の靴下+薄いライナー | 77% | 9% |
| 厚手の靴下+薄いライナー | 40% | 11% |
読みどころは2つあります。
1つめは、ライナーを足しただけでは、マメの総数は減っていないこと。数字のうえではむしろ増えています。2つめは、それでも受診が必要になるような重症のマメは、24%から9%まで下がったことです。
そして総数まで減らせたのは、厚手の外側の靴下とライナーを組み合わせたグループだけでした。効果は訓練の初期の週にはっきり出ていて、足が慣れていない時期ほど差が大きくなっています。
なお、この試験の参加者は軍靴を履いて訓練する新兵で、外側に使われたのも市販品ではなく研究用の試作ソックスでした。普段の登山靴と店頭の組み合わせで同じ数字が出るとは限りません。重症マメの区分も、蜂窩織炎(ほうかしきえん)など医療的な処置が必要になったケースを指しています。
正直に書いておくと、私はまだ二重履きを試したことがありません。この章は研究の紹介にとどめます。次の長い縦走で試したら、結果をこの記事に追記します。

登山用靴下の丈とサイズ──ここが合わないと他が生きない
どれだけ良い靴下を選んでも、サイズが合っていなければ持ち味は出ません。

足に合わない履物と足の痛み・障害の関連は、レビューでも指摘されています[8]。靴下の場合、合っていないと何が起きるかは想像しやすいはずです。大きすぎるとたるんでシワができ、そのシワがずれの起点になります。小さすぎれば指が窮屈になり、爪のトラブルにつながります。
丈は、靴の履き口より上に出るものを選ぶのが基本です。靴の縁が直接すねやくるぶしに当たると、そこが擦れます。ハイカットの登山靴ならクルー丈(ふくらはぎの下あたり)、ローカットやトレランシューズならミドル丈で足ります。
試し履きのときは、本番で履く靴下を持っていくのを忘れないでください。厚みが違うだけで、靴のサイズ感は変わります。
5本指ソックスはどうなのか──いま私が履いているもの
正直に書きます。私はいま5本指ソックスを履いていますが、それを人に勧められる根拠は持っていません。
きっかけは靴が変わったことでした。近ごろはトレイルランニング系のシューズを使うことが増え、それに合わせてランニング用の5本指ソックスを選ぶようになりました。靴が変われば、合う靴下も変わります。ここまで書いてきた話の多くは登山靴を前提にした研究なので、軽い靴を履く人はそのまま当てはめないほうが安全です。
では5本指はどうなのか。今回この記事のために調べましたが、5本指ソックスがマメを減らすと示した研究は見つけられませんでした。理屈のうえでは、指どうしが直接こすれるのを防ぎ、指の間の湿りを分ける効果が考えられます。ただ、マメの主因が骨の動きによるずれだとする最近の考え方[1]に照らすと、指を分けることがどこまで結果を変えるのかは、まだ確かめられていません。
私が使っている理由は単純で、そのほうが快適だからです。指の間のべたつきが少なく、下りで指が窮屈になりにくいと感じています。これは私の感想であって、データではありません。
もうひとつ、登山で使ううえでの実務的な壁があります。5本指は丈の選択肢が少ないのです。この記事を書くにあたって現行モデルを調べたところ、ランニング向けの5本指はくるぶし丈が主流で、それより長い丈は数えるほどでした。前の章のとおり、丈は靴の履き口より上に出したいところ。ハイカットの登山靴を履く人にとっては、そもそも選べる5本指が限られます。私がトレランシューズに合わせて使っているのも、この事情と無関係ではありません。

着圧ソックスは買う価値があるか
着圧ソックスは「登りが楽になる道具」ではありません。研究で比較的示されているのは、運動後の回復のほうです。
12件の研究をまとめた解析では、着圧ウェアが遅発性筋痛(いわゆる筋肉痛)の重さを中等度に軽減し、筋力の回復も助けることが示されました[9]。23件を統合した別の解析でも、運動後の筋力やパワーの回復について同じ方向の結果が出ています[10]。
一方で、走力そのものが上がるかについては、結論が出ていません。ランダム化比較試験を集めた最新の解析は、広く使われているにもかかわらず改善を支持する証拠は決定的ではないとしています[11]。2011年の包括的なレビューも、研究ごとに条件がばらばらで文献が断片化していると指摘しました[12]。
ここから、出番はかなり絞れます。
- 連泊の縦走で、翌日も歩く
- 下山した翌日に仕事や予定がある
日帰りで帰って休めるなら、優先度は高くありません。買うならサイズを慎重に選んでください。設計どおりの圧がかからなければ、そもそも前提が崩れます。圧の強さについては研究でも報告が不十分だったと指摘されています[13]。
なお、これらの研究の多くはランニングや筋トレを対象にしたもので、長い下りが続く登山を直接調べたものではありません。下山後の筋肉痛そのものの対処は登山後の筋肉痛を早く治す方法にまとめています。

登山用靴下の買い替え時期──穴が開く前に性能は落ちる
靴下は消耗品です。穴が開いていなくても、クッションの働きは先に落ちていきます。
先ほどと同じパッド入り靴下を、6か月間ふだん履きした人を追跡した小さな研究があります[14]。足裏の圧をどれだけ下げられたかが、時間とともにこう変わりました。
| 時点 | 前足部のピーク圧の減少率 |
|---|---|
| 使い始め | 31.3% |
| 3か月後 | 15.5% |
| 6か月後 | 17.6% |
使い始めからは落ちるものの、6か月の時点でも圧を下げる働きは残っています。3か月と6か月でほぼ横ばいなので、落ち続けるというより、早い時期に一段下がってそこで落ち着く形です。
ただしこれは10人を追った研究で、しかも登山用靴下ではありません。年数の目安として使えるほどの強さはないので、「買ったときの状態は長く続かない」という程度に受け取ってください。
私自身は、これまで生地が薄くなってきたと感じたときや、履き口が伸びてきたときに交換していました。判断の仕方としては悪くないはずです。そのうえで、へたりは見た目に出るより先に始まっているとだけ覚えておくと、交換をためらいにくくなります。

山小屋と水虫──菌は靴下を通り抜ける
山小屋の共用スペースでは、靴下の編み目の細かさが意外な意味を持ちます。
日本の皮膚科の研究に、興味深いものがあります[15]。水虫の患者が踏んだバスマットの上を、いろいろな靴下を履いて歩き、脱いだあとの足の裏から白癬菌(水虫の原因菌)がどれだけ出るかを調べたものです。
- ナイロンのストッキングと綿の靴下では、脱いだあとの足裏から菌が分離された
- ウールの靴下と足袋では、ほとんど分離されなかった
顕微鏡で見ると、ナイロンと綿は繊維が粗く、菌が通り抜けられる状態でした。ウールと足袋は繊維が密か、起毛していたそうです。
ただし、これはボランティア1人による実験です。「ウールなら安全」と言えるほどの規模ではありません。それでも、山小屋の脱衣所や共用スリッパを思い浮かべると、無視しにくい話ではあります。足の裏に汗をかきやすい人ほど、皮膚の感染症のリスクが上がることも指摘されています[16]。
現実的な対策は地味です。小屋では素足で共用部を歩かない。下山したらその日のうちに洗って乾かす。山小屋での過ごし方全般は山小屋で眠れないときの対処にも書いています。

それでも防げなかったときは
マメ予防で最も根拠が強いのは、実は靴下ではありません。
野外活動でのマメ予防を集めたレビューは、靴下・制汗剤・バリアのどれについても質の高い根拠が乏しいと結論づけています[17]。そのなかで唯一、一定の確からしさをもって「有効かもしれない」とされたのが、医療用の紙テープをバリアとして貼る方法でした。
ただしテープも万能ではありません。同じ研究チームがウルトラマラソンで2回試験をしていて、結果が割れています。
貼る場所を絞ったことが差を生んだと考えられていますが、「貼れば防げる」と言い切れる段階ではありません。
この事情を伏せて靴下を勧めるつもりはありません。靴下もテープも、マメを消す道具ではなく、マメが起きる条件を下げる手段です。過去に必ず同じ場所がやられるという人は、そこにテープを試す価値があります。

できてしまったマメの手当ては、皮を残して保護するのが基本です。自分で穴を開けるのは勧めません。詳しい手順と持ち物は登山の救急セットの中身にまとめました。
まとめ:靴下選びの優先順位
登山用靴下は、値段や素材の名前ではなく、次の順番で選ぶと迷いません。
- 濡らさない——替えを1足持ち、休憩時に履き替える。マメと最もはっきり関連していた要素
- 登山用を選ぶ——普通のスポーツソックスとは差が出ている。メリノか化繊かはマメでは差が出ず、におい・乾き・価格で選ぶ
- 厚みは靴とセットで——厚手は足裏の圧を下げうるが、靴の中の余裕を奪う。試し履きは本番の靴下で
- 二重履きは目的で決める——重症化を避けたいならライナー、数を減らしたいなら厚手との組み合わせ
- 買い替えはためらわない——へたりは見た目に出るより先に始まる
- 同じ場所がいつもやられるなら紙テープ——結果は割れているが、試す価値のある方法
売り場で3,000円の靴下を前に迷ったとき、見るべきなのは素材表示ではありません。それが登山用として作られているか、そして替えをもう1足買えるかです。足のトラブルは、山を楽しむ余裕をいちばん静かに削っていきます。そこを守れれば、次の1日はずいぶん歩きやすくなります。
参考文献
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