登山の水分補給で何を飲むか 岩の上に並んだ水・スポーツドリンク・経口補水液とおにぎり 使い分けを理学療法士が解説 ヤマカルテ

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夏山の登山口で、自販機の前で迷ったことはありませんか。スポーツドリンクか、経口補水液か、それとも水と塩分タブレットか。どれも「熱中症に良さそう」に見えて、違いがよく分からないまま何となく選んでいる——という方は多いと思います。

私は理学療法士(PT・リハビリの専門職)として、脱水した患者さんの水分と電解質を10年以上見てきました。ただ、臨床で扱うのは、ほぼ「足りない側」だけです。点滴も経口補水も、減ったものを戻すための道具として使います。

山はそこが違いました。夏山の水分には、足りない側だけでなく、摂りすぎ側にも危険があります。しかも摂りすぎ側の事故は、登山や長距離のランニングで多く報告されているのです。

さらに、山でよく勧められる2つのものが、期待どおりには働きません。安静時の飲み比べ試験では、スポーツドリンクを飲んだあとの尿量は水と差がなく、266人を調べた研究では、塩分タブレットはいちばん怖い事態を防げていませんでした

この記事では、何をどう飲み分けるかを研究データで整理します。読み終えるころには、自販機の前で迷わなくなるはずです。

結論:危険は、足りない側と摂りすぎ側の両方にある

先に答えを書きます。

  • 行動中の基本は、のどの渇きに任せて、こまめに飲む。予防のつもりで無理に大量に飲まない
  • スポーツドリンクは、糖質を摂る道具として考える。少なくとも安静時の試験では、水分の残りやすさで水を上回らなかった
  • 経口補水液は、行動中の常用ではなく「立て直し」の選択肢。ただし自力で飲めて、意識がはっきりしていて、汗をかいた後の軽い不調のときに限る
  • 塩分タブレットは、摂りすぎ側の危険を防がない。お守りにしない
  • ただし高齢の方は、のどの渇きが鈍くなる。「渇いたら飲む」だけでは足りない人がいる

最後の一つが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。順に見ていきます。

登山の水分は足りない側と摂りすぎ側の両方に危険がある 脱水・熱中症と低ナトリウム血症、行動中は渇きに任せてこまめに飲むという目安を理学療法士が図解 ヤマカルテ

スポーツドリンクは、思ったより体に残らない

スポーツドリンクは、水と比べて体に残る量が変わりませんでした。

13種類の飲料を飲み比べて、飲んだあと4時間の尿の量を測った研究があります[3]男性72人が、絶食して水分が足りている状態で、安静にしたまま1リットルを30分かけて飲むという設計です。

水(対照)の尿量は1,337gでした。これより有意に尿が少なかった=体に残った飲み物は、3つだけです。

飲み物4時間の尿量水との比較
水(対照)1,337g
経口補水液1,038g有意に残った
全脂乳1,052g有意に残った
脱脂乳1,049g有意に残った
スポーツドリンク水と差がなかった
コーラ/コーヒー/紅茶/オレンジジュース/炭酸水水と差がなかった

スポーツドリンクは、水と差がありませんでした。コーラやコーヒー、オレンジジュースも同じです。

ここで大事な但し書きがあります。これは「水分が足りている人が、安静のまま飲んだ」試験です。汗をかきながら歩いている最中に同じことが起きるかは、この研究では分かりません。「登山中もスポーツドリンクは水と同じ」と言い切ることはできない、という距離感で読んでください。

そのうえで読み取れることはあります。残った3つに共通するのは、ナトリウムを含むことです。ただし牛乳は糖質もタンパク質も含むので、ナトリウムだけで説明はつきません。「ナトリウムも関わっていそうだ」くらいが、この研究から言える範囲です。

13種類の飲料の4時間の尿量比較 水1,337gに対し経口補水液1,038g・全脂乳1,052g・脱脂乳1,049gだけが有意に残りスポーツドリンクは水と差がなかった図解 ヤマカルテ

飲みすぎの罠──運動関連低ナトリウム血症

たくさん飲めば安全、というわけではありません。

運動関連低ナトリウム血症(EAH)、という状態があります。持久的な運動の最中、または運動後24時間以内に、血液中のナトリウム濃度が135 mmol/Lを下回る状態のことです[1]

仕組みは「飲みすぎ」だけではありません。長時間の運動では、体が水を体内にとどめようとするホルモンの働きが強まることも関わっているとされています。飲んだ水が出ていきにくいところへ、薄い飲み物が入り続ける。この両方が重なって起こります。

国際的な合意会議が3回開かれるほど、スポーツ医学では重く扱われてきた問題です[2]

登山者にとって見逃せないのは、この事故が報告されている活動の内訳です。220例のEAHを集めて分析したレビューによると、ランニングとハイキングは、自転車・水泳・トライアスロンより症例報告も疫学研究もはるかに多いという結果でした[1]

ただしこれは「報告された数」なので、研究が行われやすい競技ほど多く見えるという偏りは差し引く必要があります。それでも、長時間ゆっくり動き続ける活動で報告が集まっていることは、登山者として知っておく価値があります。

同じレビューから、症状も見ておきましょう。

軽いときにいちばん多い訴え

  • 吐き気
  • 脱力感、だるさ
  • めまい
  • 頭痛
  • 手足のむくみ

重いときに出るサイン

  • 意識の変容(受け答えがおかしい)
  • 嘔吐
  • けいれん
  • 興奮する、落ち着かない
  • 倒れる、意識を失う

お気づきかもしれませんが、軽いときの症状は熱中症とほとんど区別がつきません。頭痛と吐き気とだるさは、脱水でも飲みすぎでも出ます。

ひとつ知っておきたいのは、このレビューが集めた220例のうち、血中ナトリウムが130 mmol/Lを下回っていた症例に、無症状の人は1人もいなかったという点です[1]。ただし同じレビューは、ナトリウムの値そのものからは重症度を予測できないとも述べています。数値と症状はきれいに対応しません。

現場で使えるのは数値ではなく、変化です。休んで体を冷やしても良くならない、あるいは悪化していく頭痛と吐き気は、それだけで引き返す理由になります。

運動関連低ナトリウム血症のサイン 軽いときは吐き気・だるさ・めまい・頭痛・手足のむくみ、重いときは受け答えの異常や嘔吐・けいれんという図解 ヤマカルテ

塩分タブレットは、この「飲み過ぎ」を防いでくれない

「塩を摂っていれば大丈夫」——ここも研究は否定的です。

砂漠を舞台にした250kmのウルトラマラソンで、80kmの区間を走った266人を調べた研究があります[5]。平均43歳、平均所要14時間半。血液を採取できた人の結果はこうでした。

  • 低ナトリウム血症(135 mmol/L未満):11人=6.3%
  • 高ナトリウム血症(145 mmol/L超):30人=17.2%
  • ナトリウム補給の量も、摂る割合も、これらの異常と相関しなかった

塩を多く摂った人が守られていたわけではなかった、ということです。

そして、この研究で登山者が知っておきたいのは、低ナトリウム血症になった人に見られた傾向です。

  • ベースラインの体重が平均で14kg重かった
  • 事前のトレーニング距離が有意に少なかった
  • 同じ80kmを進むのに、5〜6時間よけいにかかっていた

これは原因を特定したものではなく、そういう傾向が見られたという関連です。それでも示唆はあります。速く走りきる人よりも、長い時間をかけて進む人のほうで報告されているということ。つまりエリート競技者だけの話ではないわけです。行動時間が長くなりがちな登山は、同じ土俵にいます。

なお、塩分そのものが無意味という話ではありません。汗で失うナトリウムを補う意味はあります。ただし、塩を摂ったから安全というお守りにはならないということです。熱中症予防でも、塩分の大量摂取が予防につながらなかったという報告があります。詳しくは夏山の熱中症対策にまとめました。

砂漠のウルトラ266人の調査 低ナトリウム血症6.3%・高ナトリウム血症17.2%で塩分の補給量とこれらの異常は相関しなかったことを示した図解 ヤマカルテ

では、どう飲むか──のどの渇きに任せる

足りなくても、摂りすぎても具合が悪くなる。では行動中は、何を目安に飲めばいいのでしょうか。

ウルトラ持久活動の水分補給をまとめたレビューは、意外なほど単純な答えを出しています。のどの渇きに従って飲み、普段どおりの行動食を摂る。それだけで足りる[4]。追加のナトリウム補給も必要ない、としています。

さらに、よく言われる目安に注文をつけています。「体重減少を2%以内に抑える」という指針は、長時間の活動ではむしろ飲みすぎを招くというのです[4]

理由は、体重の減り方にあります。蓄えた燃料を使うと、その分だけ体重は減ります。しかもグリコーゲンが使われるとき、それと結びついていた水が体内に放出される。つまり長時間の運動では、ある程度の体重減少は起きて当然で、それをゼロに戻そうと飲み続けると、水が余ってしまうわけです。

登山中の飲み方 のどの渇きに従って飲む・休憩ごとに150〜200mL・予防で流し込まない・気持ち悪いときに量で押し切らないという3つの目安を理学療法士が図解 ヤマカルテ

ただし、「渇き」が鈍くなる人がいる

渇きを合図にできるかどうかで、水分補給の考え方は変わります。

「渇きに任せてよい」という推奨には、正面からぶつかる事実があります。加齢とともに、のどの渇きは鈍くなることが知られています。

65歳以上を対象にした研究をまとめた総説によると、こうなっています[8]

  • 日常生活では、高齢者も十分な量を飲んでいる
  • しかし水分制限・体液の濃縮・暑い環境での運動といった負荷がかかると、口渇感が低下し、飲む量が減る
  • 最終的に水分は回復するが、回復までが遅い

機序も分かっています。口渇感が生じる体液の濃さの「作動点」そのものが、高いほうへずれているのです。感じる力が鈍っているというより、スイッチが入る位置が変わっている、というほうが近いでしょう。

夏山は、まさにこの「負荷がかかった状況」です。暑くて、汗をかいて、長時間動き続ける。日常では問題が出ない人でも、山では差が出るということになります。

渇きを合図にできる人と渇きだけに頼らない人の違い 65歳以上・渇きを感じにくい自覚がある・持病や服薬がある場合は休憩ごとに一口という図解 ヤマカルテ

汗の塩分は、人によって違う

もう一つ、一律の推奨ができない理由があります。

汗に含まれるナトリウムの濃度は、人によって違うことが知られています[7]。同じ距離を同じ気温で歩いても、失う塩分の量が同じになるとはかぎりません(ただしこの研究は、暑熱下で5時間自転車をこいだ訓練者8人を対象にしたもので、登山者一般にそのまま当てはまるかは分かりません)。

「汗をかいたら塩を◯g」という一律の指示が作りにくいのは、このためです。

なお、服にできる白い汗じみは、塩分がどれだけ足りていないかの目安にはなりません。汗じみは汗の量や乾き方、衣類の素材でも変わるので、「白くなったから塩を足す」という使い方はできない、と考えてください。

だからこの記事でも、塩分の量を数字で指定しません。代わりに、次の順で考えてください。

  1. 行動食から摂るのを基本にする(おにぎり、パン、ナッツ、梅干しなど、普段どおりの食べ物に塩分は含まれています)
  2. 長時間・大量に汗をかく行程では、塩分タブレットなどで少しずつ足す
  3. 汗をかいた後にバテたとき、自力で飲めて意識がはっきりしていれば、経口補水液

足がつりやすい方は、電解質の話がどこまで当てにできるかを登山で足がつる原因と対処・予防で整理しています。あわせて読むと、塩分への期待値が適切になるはずです。

汗の塩分は人によって違い白い汗じみは塩分の目安にならない 行動食から摂る・塩分タブレットで足す・経口補水液という順序を示した図解 ヤマカルテ

結局、どれを選べばいいのか

行動中の基本は水と行動食で、エネルギー補給も兼ねたいときにスポーツドリンクを使い分けます。

登山の水分補給の場面別の選び方 行動中は水と行動食、エネルギーはスポーツドリンク、バテたら経口補水液、受け答えがおかしいときは飲ませず救助要請という図解 ヤマカルテ

場面選ぶもの理由
行動中の基本水+行動食塩分は食べ物から入る。胃に負担が少ない
エネルギー補給も兼ねたいスポーツドリンク糖質を摂る道具として。飲みやすさで量が増える利点もある
汗をかいた後にバテた(意識ははっきりしている)経口補水液安静時の試験では水分が残りやすかった。立て直しの選択肢
長時間・大量に汗をかく行程行動食+必要なら塩分タブレット汗の塩分量には個人差がある。汗じみは目安にならない
受け答えがおかしい、自力で飲めない飲ませず救助要請誤嚥の危険。脱水か摂りすぎかは現場で見分けられない

経口補水液を行動中ずっと飲み続ける必要はありません。あれは薄めた塩水に近いもので、味も日常向きではありません。ザックに1本、立て直し用に入れておくのがちょうどよい距離感です。

ただし、経口補水液は重い熱中症や低ナトリウム血症の手当てにはなりません。意識がはっきりしていて自力で飲めるとき、汗をかいた後の軽い不調に限って使ってください。

夏山の準備は水分だけでは終わりません。体を暑さに慣らしておく手順は登山前の暑熱順化に、子ども連れの場合の水分量は子どもの登山、水分は体重で決めるにまとめています。

まとめ:真ん中を、休憩ごとに刻む

  • 安静時の飲み比べ試験で、水より水分が残ったのは経口補水液と牛乳だけ。スポーツドリンクは水と差がなかった[3](登山中も同じとは言えない)
  • スポドリの役割は糖質。水分保持だけを期待して選ばない
  • 摂りすぎ側にも危険がある。運動関連低ナトリウム血症は、登山と長距離ランニングで報告が多い[1]
  • 症状は熱中症と見分けにくく、数値と重症度も対応しない[1]。休んで冷やしても治らない頭痛と吐き気は引き返す理由
  • 塩分タブレットはこれを防がない。266人の研究で、補給量と血中ナトリウム異常は無関係だった[5]
  • 発症した人には体重が重い・訓練が少ない・時間がかかったという傾向があった[5]。競技者だけの話ではない
  • 基本はのどの渇きに任せる。体重減少をゼロにしようとすると、長時間ではむしろ飲みすぎになる[4]
  • ただし渇きが鈍くなる人がいる[8]。65歳以上・渇きを感じにくい自覚がある・持病や服薬がある方は、休憩ごとに「渇いていなくても一口」を

自販機の前で迷ったら、こう考えてください。歩くための水と、立て直すための経口補水液は、別のものです。両方を同じ役割で持つ必要はありません。

次の夏山は、休憩のたびに一口ずつ。それだけで、下山までの体の持ちが変わってくるはずです。

参考文献

  1. Armstrong, L.E., McDermott, B.P., Young, S.L., & Casa, D.J. 2025. Exercise-Associated Hyponatremia: Serum Sodium, Symptomatology, Severity, and Sport Specificity. Open Access Journal of Sports Medicine.
  2. Hew-Butler, T., Rosner, M.H., Fowkes-Godek, S., et al. 2015. Statement of the 3rd International Exercise-Associated Hyponatremia Consensus Development Conference, Carlsbad, California, 2015. British Journal of Sports Medicine.
  3. Maughan, R.J., Watson, P., Cordery, P.A., et al. 2016. A randomized trial to assess the potential of different beverages to affect hydration status: development of a beverage hydration index. American Journal of Clinical Nutrition.
  4. Hoffman, M.D. 2019. Proper Hydration During Ultra-endurance Activities. Sports Medicine and Arthroscopy Review.
  5. Lipman, G.S., Burns, P., Phillips, C., et al. 2021. Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia During Ultramarathon Running. Clinical Journal of Sport Medicine.
  6. Noakes, T.D., Rehrer, N.J., & Maughan, R.J. 1991. The importance of volume in regulating gastric emptying. Medicine & Science in Sports & Exercise.
  7. Goulet, E.D.B., Jeker, D., Claveau, P., et al. 2026. Temporal Stability, Reproducibility and Predictability of Whole-Body Sweat Sodium Concentration During Prolonged Cycling in the Heat. Nutrients.
  8. Kenney, W.L., & Chiu, P. 2001. Influence of age on thirst and fluid intake. Medicine & Science in Sports & Exercise.