登りで体が左右に揺れる。段差を越えるたびに膝が内側に入る。下山したら膝の外側が痛む。こうした登山中・登山後の悩みには、膝だけでなく、お尻の横にある中殿筋(ちゅうでんきん)を含む股関節まわりの働きが関係している場合があります。

先に結論です。中殿筋は、片脚で立つ瞬間に骨盤を水平に保つ筋肉です。登りは片脚立ちの連続なので、骨盤を支える準備をしておく価値があります。歩き方では膝とつま先の向きをそろえ、体を横に倒さない。家では横向きの脚上げや片脚スクワットで中殿筋に負荷をかける。この2つで、お尻を使って登る準備が整います。

私は理学療法士(PT)として10年以上、歩き方と体の使い方を見てきました。片脚で立ったときに骨盤が落ちる歩き方は、私が担当してきた患者さんでは高齢の方で目にすることが多いです。ただ、若い人でも中殿筋をうまく使えていない人は意外と多く、けがの予防や将来に備える目的で、トレーニングと歩き方を指導する機会はよくあります。登頂140座以上の登山歴のなかでは、膝の外側の痛みで中殿筋を鍛え直した時期もありました。

この記事では、中殿筋の役割、登りで負担が増える理由、自分でできるチェック、登りでの使い方、家でできるトレーニングを、研究データとあわせて順に説明します。読み終えたら、次の山行の前に試す運動を1つ決めてください。

登りはお尻で骨盤を支える 秋の岩の登山道をザックを背負って登る登山者を真後ろから見た水彩画 中殿筋を使う歩き方と鍛え方を理学療法士が解説 ヤマカルテ

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先に、家で中殿筋に負荷をかけるための道具を2つ紹介します。私が使っているのは職場で不要になったゴムバンドと、ホームセンターで買ったノーブランドの重りなので、手に入りやすい定番品を選びました。使い方はこのあと説明します。

中殿筋は、片脚で立つ瞬間に骨盤を水平に保つ筋肉

中殿筋は、お尻の横、骨盤の外側から太ももの骨の付け根につく筋肉で、片脚で立った瞬間に骨盤が反対側へ落ちないように支える働きをもっています[1]。歩くとき、体重を片脚に乗せるたびに、中殿筋が骨盤を横から引き寄せて水平に保っています。

中殿筋は片脚立ちで骨盤を水平に保つ 中殿筋が働いている姿とトレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ歩行を後ろ姿で比較 ヤマカルテ

この支えが足りないと、歩き方に2つの形が現れます。

  • トレンデレンブルグ徴候:立っている脚と反対側の骨盤が下がる
  • デュシェンヌ歩行:骨盤を落とさないように、上半身を立っている脚の側へ大きく傾けて歩く

私が担当してきた患者さんで、この2つがはっきり出るのは高齢の方がほとんどでした。ただ、そこまで目立たなくても、若い人で中殿筋をうまく使えていない人は意外と多いというのが、私の実感です。骨盤がわずかに落ちる、膝が少し内に入る。平地を歩くぶんには困らない程度の差が、山では積み重なります。

登りは片脚立ちの連続で、坂と荷物が中殿筋の仕事を増やす

登りは、一歩ごとに片脚で体を持ち上げる片脚立ちの連続です。段差では片脚で立つ時間が長くなり、足場が傾けば骨盤を水平に保つ仕事も増えます。

登りは片脚立ちの連続 段差・傾いた足場・ザックの重さが中殿筋の仕事を増やす シミュレーション研究では中殿筋の仕事量は登りで最大 ヤマカルテ

傾斜0度と上下10度の歩行を、体重の40%の荷物を背負う条件も含めてコンピューター上の動作シミュレーションで調べた研究では、中殿筋の仕事量は登りで最も大きくなりました。荷物を背負った登りでは、中殿筋が引き伸ばされながら力を出す働き方(エキセントリックな仕事)が大きいことも示されています[2]。著者は、重い荷物で登り続けると股関節まわりの筋が過度に疲労し、けがのリスクが高まりうると述べています。

これは実際の登山者を測った研究ではなく、歩行データをもとに筋の仕事量を計算したシミュレーションです。体重の40%という荷物も、日帰り登山より重い条件です。それでも、坂と荷物が重なると中殿筋の仕事が増える方向にある、という目安にはなります。

膝の痛みがある人は、骨盤が落ちて膝が内に入りやすい

片脚スクワットをしたときの動きを比べた研究では、膝蓋大腿部痛(膝のお皿まわりの痛み)がある人は、ない人より骨盤が下がり、膝が内に入り、股関節を外に開く力が18%弱いという結果でした[4]。

膝の痛みがある人の片脚スクワット 反対側の骨盤が下がる角度10.3度と7.4度 股関節14.8度と10.8度 膝9.2度と5.8度 股関節を外に開く力は18%弱い ヤマカルテ

具体的な数字は次のとおりです(膝の痛みがある人/ない人)。

片脚スクワットでの動き膝の痛みがある人痛みがない人
反対側の骨盤が下がる角度10.3度7.4度
股関節が内側へ入る角度14.8度10.8度
膝が内側へ入る角度9.2度5.8度

ただし、これは一時点の比較です。中殿筋が弱いから膝が痛くなったのか、痛いから使わなくなったのかは、この研究からは分かりません。

また、「中殿筋が疲れると膝が内に入る」と単純には言えない点にも注意が必要です。運動をしている女性20人に中殿筋を疲れさせてから片脚で着地させた研究では、膝が内に入る角度はむしろわずかに減りました[5]。体は疲れた筋の代わりに、別の筋や姿勢でつじつまを合わせます。

私自身、膝の外側の痛みで腸脛靱帯炎を疑い、セルフケアをしていた時期があります。そのときはストレッチに加えて、片脚で体重を支える荷重トレーニングと、職場の休憩時間に病院の重り(足首につける重錘)を使って脚を持ち上げるトレーニングで、中殿筋を鍛え直しました。この頃に歩いた山行の記録は、甲斐駒ヶ岳を北沢峠から日帰りにまとめています。

お尻のトレーニングで膝の痛みは減るのか

膝蓋大腿部痛の人を対象にした14の試験(673人)をまとめたメタ分析では、股関節と膝の両方を鍛えた人は、膝だけを鍛えた人より痛みが減り、活動面の評価も改善しました[6]。

ただし、この分析では、痛みが減ったときに筋力そのものは有意に増えていませんでした。「中殿筋が強くなったから痛みが減った」とは言い切れず、動き方が変わったことの影響も考えられます。

さらに、膝蓋大腿部痛の200人を12週間追ったランダム化試験では、股関節中心の運動と、太もも前(大腿四頭筋)中心の運動の効果は同等でした[7]。しかも、どちらの運動も、はっきり意味のある改善とされる基準には届きませんでした。お尻だけを鍛えれば膝が治る、という話ではありません。

腸脛靱帯炎についても、ランナーを対象にした13の研究のレビューで、股関節を外に開く筋のトレーニングが保存療法でよく使われ、痛みと機能の改善が報告されています[8]。ただし、ほかの治療と組み合わせた研究が多く、中殿筋のトレーニングだけの効果は分かっていません。

まとめると、中殿筋のトレーニングは、膝の痛みに対して試せる選択肢の1つです。なお、ここで紹介した研究はすでに痛みがある人を対象にしたもので、健康な登山者の予防効果を確かめたものではありません。太ももやふくらはぎのトレーニングと組み合わせ、登りの歩き方とセットで考えるのが現実的です。膝の痛み全体の予防は、登山の膝の痛みを予防する方法にまとめています。

お尻のトレーニングで膝の痛みは減るのか メタ分析14試験673人・ランダム化試験200人・腸脛靱帯炎のレビュー13研究の結果 膝の痛みに対して試せる選択肢の1つ ヤマカルテ

片脚スクワットで、骨盤と膝の動きを確かめる

鏡の前で片脚スクワットをすると、骨盤と膝の動きの左右差を自分で確かめられます。

鏡の前の片脚スクワットでセルフチェック 骨盤・上半身・膝の3点を左右5回ずつ確かめる 診断ではなく動きの左右差に気づくためのチェック ヤマカルテ

  1. 鏡の正面に立ち、両手を腰に当てる
  2. 片脚で立ち、反対の脚は軽く浮かせる
  3. 膝を軽く曲げて、ゆっくり5回しゃがんで戻る
  4. 反対の脚でも同じように行う

見るポイントは3つです。

  • 骨盤:浮かせた脚の側の腰が下がっていないか
  • 上半身:立っている脚の側へ体が傾いていないか
  • 膝:膝がつま先より内側へ入っていないか

健康な34人の研究では、臨床家が見た片脚スクワットの評価は再現性が高く、動きが良いと判定された人ほど、中殿筋が早く働き、股関節を外に開く力も強いという結果でした[9]。

一方で、片脚立ちで骨盤の傾きを見るトレンデレンブルグテストは、健康な若い人では、股関節を外に開く力と骨盤の動きの間に有意な関連が見られませんでした[10]。

この研究が調べたのは臨床家の評価で、本人が鏡で見る評価ではありません。つまり、このチェックは中殿筋の強さを測るものではなく、動きの左右差に気づくためのものです。スマートフォンで正面から動画を撮ると、自分では気づきにくい骨盤の傾きも見えます。左右で動きが大きく違う、片側だけ膝が内に入る、という場合は、次の章の歩き方と運動を意識して試してみてください。

登山の登りで中殿筋を使う歩き方は、膝とつま先の向きをそろえて体を横に倒さないこと

登りでお尻を使うには、膝とつま先の向きをそろえ、骨盤を水平に保ったまま、踏み込んだ足の真上に体を運ぶことです。意識することは3つに絞ります。

登りで中殿筋を使う歩き方 膝とつま先を同じ方向に・体を横に倒さない・足の真上に体を運ぶ 疲れてきたら立っている脚の側のお尻に体重を乗せる ヤマカルテ

  • 膝とつま先を同じ方向に向ける:段差に乗るとき、膝がつま先より内側へ入らないようにする
  • 体を横に倒さない:片脚に乗った瞬間、立っている脚の側へ上半身を傾けて骨盤の傾きをごまかさない
  • 足の真上に体を運ぶ:足だけ前に置いて体が後ろに残ると、太もも前に頼って体を引き上げる形になりやすい(臨床での見立てです)

足の置き方や段差の越え方は、登山の登りの歩き方で詳しく説明しています。あちらは前後方向の体の運び方、この記事は左右方向の安定、と考えてください。

私が登りで意識しているのは、膝だけで登らないことです。登りの途中で、お尻、太もも、ふくらはぎと、意識する筋を順番に変えるようにしています。研究で確かめた方法ではありませんが、一つの筋だけが先にへばる感覚が減る、というのが私の実感です。

自宅でできる中殿筋トレーニングは、横向きの脚上げと片脚スクワットから

家で中殿筋を鍛えるなら、筋電図で中殿筋の活動が高かった種目から選ぶと効率的です。健康な人を対象にした研究で、中殿筋の活動が高かった種目は次のとおりです(全力で力を入れて止めたときの筋電図を100%とした割合)。

種目中殿筋の活動研究
サイドプランク+脚の持ち上げ(鍛える脚が下)103%[11]
サイドプランク+脚の持ち上げ(鍛える脚が上)89%[11]
片脚スクワット82%[11]
横向きの脚上げ81%[12]
クラムシェル(段階を上げたもの)77%[11]

数値は2つの研究から集めたもので、研究どうしを直接比べることはできません。100%を超える値は、筋力が最大を超えたという意味ではなく、測定の基準より筋電図が大きかったという意味です。クラムシェルの77%も、通常の形ではなく負荷を上げた段階の値です。

さらに、筋電図の大きさの順位と、実際に筋が出している力の順位は、あまり一致しないという研究もあります[13]。表の順位は「どれが一番鍛えられるか」の答えではなく、中殿筋に負荷がかかりやすい種目の候補として使ってください。

私が膝の外側の痛みで中殿筋を鍛え直したときも、2種類を組み合わせました。

寝て行う運動:横向きの脚上げとクラムシェル

横向きに寝て脚を動かす運動は、体重を支えずに中殿筋を中心に使えるので、まず動かし方を覚えるのに向いています。

  • 横向きの脚上げ:横向きに寝て、上の脚を伸ばしたまま斜め後ろへ持ち上げ、ゆっくり下ろす。つま先は天井へ向けず、体の前方か少し床側へ向ける
  • クラムシェル:横向きに寝て膝を曲げ、かかとをつけたまま上の膝を開く。骨盤が後ろへ倒れないようにする

慣れてきたら、足首に重り(アンクルウェイト)をつける、膝の上にミニバンドを巻く、と負荷を足していきます。

体重を支えて行う運動:片脚スクワットとサイドプランク

体重を支えて行う運動は、登りと同じように体重を支えながら中殿筋を使う練習になります。

  • 片脚スクワット:チェックと同じ動きを、壁や椅子に軽く手を添えて行う。膝とつま先の向きをそろえ、骨盤を水平に保ったまま浅くしゃがむ
  • 段差の昇り降り:階段の1段目に片脚で乗り、膝が内に入らないように昇って、ゆっくり降りる
  • サイドプランク:横向きで肘と膝をついて体を一直線に持ち上げる。慣れたら膝を伸ばし、上の脚を持ち上げる

回数は、一般的な筋力トレーニングと同じく10〜15回を2〜3セット、週2〜3回を目安に、正しい形で最後までできる回数から始めてください。サイドプランクは回数ではなく、正しい形を保てる秒数(はじめは10〜20秒程度)を左右2〜3回から始めます。痛みが出る種目は無理に続けず、楽な種目に戻します。

自宅でできる中殿筋トレーニング 横向きの脚上げ・クラムシェル・片脚スクワット・サイドプランク 10〜15回×2〜3セット週2〜3回が目安 ヤマカルテ

自宅トレーニングを続ける工夫は、登山復帰のトレーニングプログラムも参考にしてください。

まとめ:登りは片脚立ちの連続。お尻で骨盤を支える準備を

  • 中殿筋は、片脚で立つ瞬間に骨盤を水平に保つ筋肉。登りは片脚立ちの連続
  • 動作シミュレーションの研究では、中殿筋の仕事量は登りで最も大きく、荷物を背負った登りでも大きな仕事をしていた
  • 膝の痛みがある人は、骨盤が下がり、膝が内に入り、股関節を外に開く力が弱い傾向がある(因果関係は不明)
  • お尻のトレーニングは膝の痛みに対して試せる選択肢の1つ。太ももの運動や歩き方と組み合わせる
  • 鏡の前の片脚スクワットで、骨盤・上半身・膝の動きの左右差に気づく
  • 登りでは膝とつま先の向きをそろえ、体を横に倒さず、足の真上に体を運ぶ
  • 家では横向きの脚上げ・クラムシェルで動かし方を覚え、片脚スクワット・サイドプランクへ進む

お尻で骨盤を支える意識と準備ができると、登りで体が左右に揺れることに気づき、自分で立て直せるようになります。まずは今日、鏡の前で片脚スクワットを左右5回ずつ試して、自分の左右差を確かめてください。

参考文献

  1. Neumann, 1989. Biomechanical analysis of selected principles of hip joint protection. Arthritis Care & Research.
  2. Sturdy et al., 2024. Concentric and eccentric hip musculotendon work depends on backpack loads and walking slopes. Journal of Biomechanics.
  3. Tateuchi et al., 2015. The effect of angle and moment of the hip and knee joint on iliotibial band hardness. Gait & Posture.
  4. Nakagawa et al., 2012. Trunk, pelvis, hip, and knee kinematics, hip strength, and gluteal muscle activation during a single-leg squat in males and females with and without patellofemoral pain syndrome. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy.
  5. Patrek et al., 2011. Hip-abductor fatigue and single-leg landing mechanics in women athletes. Journal of Athletic Training.
  6. Nascimento et al., 2018. Hip and Knee Strengthening Is More Effective Than Knee Strengthening Alone for Reducing Pain and Improving Activity in Individuals With Patellofemoral Pain: A Systematic Review With Meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy.
  7. Hansen et al., 2023. Quadriceps or hip exercises for patellofemoral pain? A randomised controlled equivalence trial. British Journal of Sports Medicine.
  8. Sanchez-Alvarado et al., 2024. Effects of conservative treatment strategies for iliotibial band syndrome on pain and function in runners: a systematic review. Frontiers in Sports and Active Living.
  9. Crossley et al., 2011. Performance on the single-leg squat task indicates hip abductor muscle function. American Journal of Sports Medicine.
  10. McCarney et al., 2020. Determining Trendelenburg test validity and reliability using 3-dimensional motion analysis and muscle dynamometry. Chiropractic & Manual Therapies.
  11. Boren et al., 2011. Electromyographic analysis of gluteus medius and gluteus maximus during rehabilitation exercises. International Journal of Sports Physical Therapy.
  12. Distefano et al., 2009. Gluteal muscle activation during common therapeutic exercises. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy.
  13. Collings et al., 2025. Reconsidering Exercise Selection with EMG: Poor Agreement between Ranking Hip Exercises with Gluteal EMG and Muscle Force. Medicine & Science in Sports & Exercise.