登山用のグローブ、1枚で全部まかなおうとしていませんか? 鎖場で滑らない手袋と、冬の稜線で指を守る手袋と、雨のテント設営で濡れない手袋は、求める性能がまるで違います。
先に結論です。グローブは「岩稜」「防寒」「雨」の3つの場面に分けて選びます。 岩稜は薄くて指先まで覆うもの、防寒はインナーとオーバーの重ね使い、雨は防水のもの。厳冬期はここに予備を1組足します。
理学療法士(PT)として10年以上、手の動きとリハビリに関わってきました。手先の細かい作業は、指の温度と手袋の厚さの両方に左右されます。登頂140座以上のなかで、ジャンダルムや御在所岳のヴィアフェラータのような岩場も、冬の山も歩いてきました。この記事では、研究データと、私が実際に使い分けている5組の手袋をもとに選び方を説明します。
読み終えたら、次の山行に持っていく手袋の組み合わせを1つ決められます。

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先に、私が実際に使っている手袋を3つ紹介します。選んだ理由は、このあと場面ごとに説明します。
登山用グローブは「岩稜・防寒・雨」の3つの場面で選ぶ
登山用グローブは、岩稜・防寒・雨の3つの場面で、優先する性能が変わります。岩稜では「つかめること」、防寒では「指を冷やさないこと」、雨では「濡らさないこと」です。

1枚の手袋で全部を満たそうとすると、どれかが犠牲になります。暖かい手袋は厚くなり、鎖をつかむ感覚が鈍ります。薄い手袋は鎖場で扱いやすい反面、冬の稜線では指を守れません。
| 場面 | いちばん大事なこと | 選び方の目安 | 私が使っているもの |
|---|---|---|---|
| 岩稜・鎖場 | つかめること・手を守ること | 薄手・指先まで覆う・手のひらが革か人工皮革 | BAILESS マルチストレッチ |
| 防寒 | 指を冷やさないこと | インナー+オーバーの重ね使い。オーバーはミトンか三本指 | モンベル メリノウール グローブ タッチ+BD ソロイスト フィンガー |
| 雨 | 濡らさないこと | 縫い目まで防水のもの | モンベル ドライテック レイングローブ |
| 予備(厳冬期) | なくした・濡らしたときの代わり | 防水・防寒で、安くて丈夫なもの | 防寒テムレス |
春〜秋の低山の日帰りなら、岩稜用の薄手1組とレイングローブが基本です。ただし季節だけで決めず、標高・風・気温・行動時間を見て、防寒用と予備を足してください。夏でも、高い山の稜線で雨と風に当たれば手はかじかみます。行程と季節に合わせた持ち物全体は、登山の装備チェックリストで確かめられます。
指が冷えると何が起きるか【PT解説】
指先が冷えると、細かい作業が遅くなり、触った感覚が鈍り、必要以上に強く握るようになります。手袋を選ぶ前に、この3つを知っておくと選ぶ基準がはっきりします。

細かい作業が遅くなる
健康な22人が5℃の部屋に90分いた実験では、指先の温度は9.8℃まで下がりました[1]。同じ条件で、電熱フィルムで手を温め続けた日は、指先は13.7℃に保たれ、ペグ(小さな棒)を穴に差す作業の時間も14.5%短くなりました。
山に置きかえると、ザックのバックル、レインウェアのファスナー、靴ひも、地図アプリの操作です。どれも指先の作業なので、冷えた手では1つずつ時間がかかります。
触った感覚が鈍る
ダイバーを対象にした実験では、指の皮膚温度が低いほど、触った感覚が鈍くなりました[3]。
岩稜では、手で岩や鎖の状態を確かめながら進みます。濡れているか、ぐらつくか。冷えた指では、その情報が手に入りにくくなります。
必要以上に強く握る
指先を8℃未満まで冷やした実験では、物を持ち上げるときの握る力が約5N(約0.5kg分)強くなりました[2]。感覚が鈍ったぶんを、強く握ることで補っていると考えられます。
さらにこの実験では、体全体を冷やした状態だと、細かい作業の成績がもっと落ちました。手だけでなく体幹を冷やさないことも、手先を守ることにつながります。
厚い手袋も細かい作業を妨げる
手袋は指を温めてくれる一方で、厚くなるほど細かい作業はしにくくなります。15人の成人男性が10種類の防振手袋で作業した研究では、手袋が厚くなるほど器用さがほぼ直線的に落ちました[4]。重ねる枚数が増えたときや、サイズが合っていないときにも、器用さが落ちると報告されています[5]。
つまり、暖かさと手先の動かしやすさは両立が難しい関係です。この記事で場面ごとに手袋を分けるのは、場面ごとにどちらを優先するかを決めるためです。
岩稜・鎖場のグローブは、薄手で指先まで覆うものを選ぶ
岩稜・鎖場の手袋は、薄手で、指先まで覆い、手のひらが革か人工皮革のものを選びます。鎖や岩をつかむ感覚を残しつつ、手のひらを擦り傷から守るためです。
選ぶときは次の4つを確かめます。
- 指先まで覆う:指先の出る手袋は細かい操作がしやすい反面、岩やハシゴの角で指先を傷めやすくなります
- 手のひらが革か人工皮革:鎖やハシゴは表面がざらざらしていて、布だけの手袋はすぐ擦り切れます
- 薄手で、つかんだ感覚が残る:厚い手袋ほど器用さが落ちるのは、前の章で見たとおりです
- サイズがぴったり:指先が余ると、鎖をつかむときに布が折れて滑ります

私は岩場や鎖場では、基本的に手袋をつけています。使っているのは BAILESS(好日山荘のブランド)の「マルチストレッチトレッキンググローブ」です。手のひらは人工皮革、甲は伸びるニットで、重さは約40gと軽く、生地も薄手です。
防寒のグローブは、インナーとオーバーの重ね使いにする
冬の手袋は、薄いインナーと、ミトンか三本指のオーバーを重ねて使います。暖かさが必要な場面はオーバーで指を守り、細かい作業はインナーだけになって行えるからです。

ミトンは五本指より暖かい傾向がある
素材や厚さが同じくらいなら、指を1本ずつ包む五本指より、指をまとめて包むミトンのほうが暖かくなりやすい形です。南極の冬に、さまざまな手袋とミトンを屋外で試した調査では、ライナー入りのミトンは指の温度を15℃以上に保ちました[6]。ライナーなしのミトンでも、電熱のない五本指の手袋より成績がよい傾向でした。
ただしこの調査は、著者が少数の製品を南極の屋外で試したもので、手は動かさずに測っています。条件が限られるので、「ミトンは暖かい傾向がある」くらいに受け取ってください。
三本指(親指・人差し指・残りの3本)は、その中間の形です。三本指そのものを比べた研究は見つけられませんでしたが、人差し指が独立しているぶん、ストックやピッケルを握りやすくなります。
冬の手袋の重ね方(私の使用例)
私の冬の手袋は、インナーにモンベル メリノウール グローブ タッチ、オーバーに Black Diamond の「ソロイスト フィンガー」という三本指タイプです。
- インナー:メリノウールの薄手。汗をゆっくり外へ逃がすので、汗冷えしにくい素材です。タッチパネル操作にも対応しています
- オーバー:防水の外側と、取り外せる中綿入りのライナーの2層。手のひらは補強された革です
付属のライナーは外さず、その内側にメリノのインナーを重ねて、3層で使っています。
厳冬期は、インナーとオーバーの間にカイロを入れることがあります。これは私の経験としての工夫です。研究で確かめられているのは電熱フィルムで手の甲と手のひらを温めた場合で、指先の温度と手先の作業が保たれました[1]。使い捨てカイロで同じ効果が出るかは確かめられていません。
カイロを使うなら、低温やけどに気をつけてください。手袋の中で同じ場所に長く押し当て続けないこと、肌に直接当てないことが基本です。
ミドルレイヤーやダウンなど、体幹を冷やさない服の選び方はミドルレイヤーの選び方にまとめています。
雨のグローブは、縫い目まで防水のものを選ぶ
雨の日の手袋は、縫い目まで含めて防水になっているものを選びます。縫い目の裏にシームテープ(防水テープ)を貼ったもの、防水の中袋を入れたもの、全体を樹脂でおおったものなど、作り方は製品によって違います。濡れた手袋は乾いた手袋より熱を奪いやすく、雨と風が重なると指先から冷えていくからです。

2009年のトムラウシ山の事故では、前日からの雨で雨具や手袋が乾かないまま、強風の稜線に出たことが報告されています[7]。夏の山でも、濡れた手袋は低体温症の入口になります(詳しくは夏の低体温症の記事)。
私は雨の日のテント設営などで、モンベル ドライテック レイングローブを使っています。
- 防水の3層素材で、縫い目はすべてシームテープ処理されています
- 重さは1組で平均42gと軽く、ザックに入れっぱなしにできます
- タッチパネル操作にも対応しています
- 薄手のグローブと重ねれば、季節を問わず使えるとされています
テントの張り綱の結び直しやペグ打ちは、指先の作業です。濡れた素手でやると手がかじかみ、作業がどんどん遅くなります。防水の手袋は、雨の中で止まる時間を短くする道具でもあります。
厳冬期は予備の手袋とリーシュでなくす・濡らすに備える
厳冬期は、予備の手袋を1組持ち、手袋にはリーシュをつけます。冬の稜線で手袋をなくしたり濡らしたりすると、代わりがなければ指を守れないからです。

私は厳冬期だけ、予備として防寒テムレスを持っていきます。もとは作業用の手袋ですが、防水で内側が起毛しており、冬山で使う人も多い手袋です。
リーシュは、手袋と手首をつなぐひもです。強風のなかでオーバーを外したとき、手から離れても飛ばされません。モンベルのドライテック レイングローブのように、リーシュ用のループがついた手袋もあります。
手袋のまま操作できるように、道具の側を工夫する
厚い手袋をつけたまま操作できるように、ファスナーやスマホの側を工夫しておくと、手袋を外す回数が減ります。手袋を外す回数が減れば、指が冷える回数も減ります。
厚い手袋ほど器用さが落ちるのは、手袋の性能だけでは解決できません[4]。リハビリの現場でも、手の力が弱い人には、握りやすい太さの持ち手をつけるなど、道具のほうを手に合わせることがあります。山でも考え方は同じです。
私が実際にやっている工夫は次の4つです。
- 大きめのジッパープル:三本指のオーバーだと、小さなファスナーはつまみにくくなります。アウターのベンチレーション(換気口)など、行動中に開け閉めする場所には大きめのジッパープルをつけています
- タッチパネル対応のインナー:インナーをつけたままスマホを操作できます
- スマホにタッチペンをストラップでつける:厚い手袋でもペンなら握れます
- スマホを保温ケースに入れる:低温でスマホの電源が落ちないように、NANGA の「Mini Sleeping Bag Phone Case」(スマホ用の小さな寝袋型ケース)に入れています

スマホは地図とGPSを兼ねる道具です。低温で電源が落ちると、現在地が分からなくなります。ヘッドランプも、厚い手袋で押せるスイッチかどうかを確かめておくと安心です(ヘッドランプの選び方)。
まとめ:手袋は場面で分け、厳冬期は予備を足す
- 登山用グローブは岩稜・防寒・雨の3つの場面で選ぶ。季節だけでなく、標高・風・気温で防寒と予備を足す
- 指が冷えると、細かい作業が遅くなり、触った感覚が鈍り、必要以上に強く握るようになる
- 厚い手袋ほど器用さは落ちる。暖かさと動かしやすさは両立が難しい
- 岩稜は、薄手で指先まで覆い、手のひらが革か人工皮革のもの
- 防寒は、インナー+ミトンか三本指のオーバー。細かい作業はインナーだけで
- 雨は、縫い目まで防水のもの。濡れた手袋は低体温症の入口になる
- 厳冬期は予備を1組とリーシュ。ファスナーやスマホは、手袋のまま操作できるように工夫する
まずは、次の山行の場面を1つ思い浮かべてください。岩場があるのか、寒いのか、雨なのか。その場面に合う手袋を1組ザックに入れるだけで、指先の不安は1つ減ります。
参考文献
- Wang G, Fan J, Yue T, Gao X, Zhang T, Hurr C. 2024. The application of heating film to hands reduces the decline in manual dexterity performance associated with cold exposure. European Journal of Applied Physiology.
- Cheung SS, Reynolds LF, Macdonald MA, Tweedie CL, Urquhart RL, Westwood DA. 2008. Effects of local and core body temperature on grip force modulation during movement-induced load force fluctuations. European Journal of Applied Physiology.
- Zander J, Morrison J. 2008. Effects of pressure, cold and gloves on hand skin temperature and manual performance of divers. European Journal of Applied Physiology.
- Yao Y, Rakheja S, Gauvin C, Marcotte P, Hamouda K. 2018. Evaluation of effects of anti-vibration gloves on manual dexterity. Ergonomics.
- Millard CE, Vaughan NP. 2015. Assessment of Protective Gloves for Use with Airfed Suits. Annals of Occupational Hygiene.
- Iserson KV. 2016. Glove and mitten protection in extreme cold weather: an Antarctic study. International Journal of Circumpolar Health.
- トムラウシ山遭難事故調査特別委員会(日本山岳ガイド協会). 2010. トムラウシ山遭難事故調査報告書. https://jfmga.jp/pdf/activityreport/トムラウシ山遭難事故調査報告書.pdf