登山の前泊・車中泊 眠れない夜が下山に響く理由と対策を理学療法士が解説 ヤマカルテ

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登山口の駐車場が埋まる。だから前夜のうちに現地へ入る。そこまでは決まっていても、その夜どう眠るかは、なんとなくで済ませていないでしょうか。

私もそうでした。後席を倒して毛布をかぶれば寝られるだろう、と。実際には眠れない夜がありました。そして翌日、登りは平気だったのに、下りに入ってから足がまとまらないという経験を何度もしています。

先に結論を書きます。前泊の車中泊で最も影響が出るのは、登りではなく下りです。そして日本の夏に限っていえば、敵は寒さではなく暑さです。

私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は140座以上を歩いてきました。布団を持ち込むような本格的な車中泊だけで16の山域、運転席での仮眠まで含めれば30回を超えます。この記事は、その経験と、睡眠不足が運動能力に何をするかの研究をあわせて書きます。

読み終えるころには、次の前泊で「どこに停めて、何を持っていくか」が決まります。

翌日を左右するのは「何時に寝たか」より「何時に起きたか」

同じ睡眠不足でも、パターンによって翌日への影響はまるで違います。 一貫して悪影響が出たのは、徹夜と、いつもより早く起きて睡眠を切り上げるパターンでした。

睡眠の削られ方で翌日への影響が変わることを示す図解 徹夜は効果量マイナス0.23、夜の後半を削る早起きはマイナス1.17でいちばん悪く、夜の前半を削る寝つきの遅れはマイナス0.25 前泊の朝は夜の後半を削るパターンに当たる ヤマカルテ

Cravenらは69の研究・227のアウトカムを統合し、睡眠不足が運動パフォーマンスに与える影響を解析しました[1]。全体では平均7.56%の低下(95%信頼区間 -11.9〜-3.13)。ここまでは想像どおりです。

注目したいのは、その内訳でした。一貫して悪影響が出たのは、徹夜と、いつもより早く起きて睡眠を切り上げるパターンの2つだけ。「寝つくのが遅くなった」だけの夜は、影響が一貫しませんでした[1]

前泊の車中泊を思い浮かべてください。21時に寝ようとして眠れず、23時にようやく寝つき、3時に起きる。悪いのは後半です。眠りにつくのが遅れたことより、朝を削ったことのほうが翌日にのしかかります。

Gongらの解析も同じ方向を示しています。夜の後半を削る部分的な断眠の効果量は-1.17で、徹夜の-0.23や夜の前半を削る-0.25より大きくなりました[2]

ここで、はっきりさせておきたいことがあります。だから遅く出発しよう、という話ではありません。

午後の雷雲、日没前に下山を終えること、渋滞。早出早着には、睡眠より優先される理由があります。そもそも前泊しているのは、早く歩き出すためです。出発時刻は動かさない。これが前提です。

では何が動かせるのか。起きてから歩き出すまでの段取りと、そこに向けた前夜の備えです。

では、車中泊しないほうがいいのか

ここまで読むと、逆の疑問が出てきます。車内で浅く眠るくらいなら、家で寝てから向かえばいいのではないかと。

私も長く迷ってきました。車内は家より不便です。寝返りも打ちにくく、眠りが浅くなるのは間違いありません。

ただ、条件を並べると答えが見えてきます。早朝の現地入りは、どちらを選んでも動かせません。駐車場は埋まりますし、早出早着も譲れない。とすると、家から向かう場合は真夜中に家を出ることになります。

登山口まで3時間かかる山で、5時に歩き出したいとします。

  • 車中泊する:前夜のうちに現地入り。4時40分に起きれば足りる
  • 家から向かう1時台に起きて、2時前に出発。実際には「ほとんど寝ないまま運転する」形になりがち

削られているのは、どちらも朝です。そして削られ方が大きいのは、家から向かうほうでした。

Cravenらの解析で一貫して悪影響が出たのは、徹夜いつもより早く起きて睡眠を切り上げるパターンの2つでした[1]。家から真夜中に出る選択は、この2つのど真ん中に入ります。

もうひとつ。深夜の長距離運転そのものが危険です。眠気のピークは明け方に訪れます。山に着く直前の区間が、いちばん危ない時間帯と重なります。

車中泊と自宅泊で起床時刻を比べた図解 同じ5時歩き出しでも車中泊なら4時40分起床で支度だけ、家から向かうと1時台起床で2時出発、3時間の深夜運転になり削られる朝の差が大きい ヤマカルテ

寝不足は、登りではなく下りに出る

前泊明けの朝、意外と体が動くので「大丈夫だ」と思うことがあります。その感覚は、半分正しくて半分危険です

Cravenらの解析では、午前中に行った課題はほとんど影響を受けず、午後に行った課題は一貫して低下しました[1]。さらに、起きてからの経過時間が1時間延びるごとに、およそ0.4%ずつパフォーマンスが下がるという関係も示されています。

登山に当てはめてみます。3時に起きて14時に下山するなら、覚醒してから11時間。単純計算で4%強の低下が、いちばん脚が疲れている時間帯に重なります。

Gongらの解析でも、午前の効果量-0.30に対し、午後は-1.11でした[2]

寝不足の影響が登りではなく下りに出ることを示す図解 3時起床から14時下山までの行程で午前は効果量マイナス0.30とほとんど影響が出ず午後はマイナス1.11で一貫して低下、覚醒1時間ごとに約0.4%で11時間なら4%強の低下 ヤマカルテ

持久系に絞った解析も見ておきます。Lopesらは31の研究(のべ478名)を統合し、睡眠不足が持久的パフォーマンスを中程度低下させると報告しました[3]。そして30分を超える運動のほうが、短い運動より強く影響を受けました。登山は数時間続く運動です。まともに当てはまります。

落ちるのは脚だけではありません。睡眠不足では認知的な処理が遅く、不正確になることが繰り返し報告されています[4]。道迷いも、滑落も、多くは判断から始まります。

前泊地は2種類ある——登山口の駐車場か、ゲート前か

車中泊の快適さを決めるのは、装備よりもどこに停めるかでした。30回以上やってきて、はっきり2種類に分かれます。

登山の前泊地は2種類あることを示す図解 登山口の駐車場は標高が高く涼しく街灯がなく起きてすぐ歩き出せて4時40分起床、ゲート前は標高が低く夏は暑く開放時刻に確実に起きて起きてすぐ長い林道の運転で3時起床、選べないが計画段階で先に分かる ヤマカルテ

①登山口の駐車場に停められる場合|快適

常念岳、燕岳、蝶ヶ岳。このあたりは登山口のすぐそばに駐車場があります。標高が高く、山奥で、暗くて涼しい。夏でも夜は気温が下がり、街灯もありません。

そして何より、起きてすぐ歩き出せる。支度だけ済ませれば歩き出せるので、同じ出発時刻でも、その分だけ長く眠れます。前の章で触れた「起きてから歩き出すまでを縮める」が、そのまま実現できる形です。

ただし、停められればの話です。蝶ヶ岳に日帰りで登った日は深夜4時の到着で第1駐車場がすでに満車で、800m手前の第2駐車場に回されました。この快適さは、前夜のうちに入れた人のものです。

②ゲート前で待機する場合|難易度が上がる

いちばん苦労したのは薬師岳でした。有峰林道のゲート前で朝を待つのですが、ここはまだ街に近く、標高が低い。夏は普通に暑い。

さらに条件が重なります。ゲートの開放時刻に確実に起きなければならない。そして起きてすぐ、長い林道を運転しなければならない。眠気が残ったまま、細い道でハンドルを握ることになります。

燕岳の中房温泉も、駐車場が数に限りのある激戦区で、前夜のうちに現地入りしました。詳しくは燕岳に初心者と日帰り登山に書いています。薬師岳では有峰林道のゲート前に並び、運よく先頭を取れたのでそのまま朝まで車中泊でした(薬師岳の記録)。上高地へ入るあかんだな駐車場も同じ形で、深夜2時前に着いて4時の開門まで列に並んだまま仮眠でした(北穂高小屋の宿泊記)。

計画段階で、自分がどちらのパターンかを確かめてください。②なら、暑さ対策と起床の段取りを厚めに用意する。それだけで夜の質が変わります。

夏の車中泊は、暑さが最大の敵

冬より夏のほうが圧倒的につらい。これが30回やっての実感です。そして、これは研究とも一致します。

Okamoto-Mizunoらのレビューによれば、寝具や衣類を使う現実の条件では、暑さへの曝露が覚醒を増やし、徐波睡眠とレム睡眠を減らします[5]。一方で寒さは、寝具と衣類があれば睡眠段階そのものには影響しないとされます。湿度の高い暑さは、さらに睡眠を妨げます。

日本の夏の車内は、まさにこの条件です。私が実際にぶつかった壁は3つでした。

  • 窓を開けても風が入らない。 少し開けた程度では空気が動かず、熱がこもったままになる
  • 窓を開けると虫が入る。 山際の駐車場ではとくに顕著
  • 車用の防虫ネットが合わなかった。 車種に対して形が合わず、隙間ができて役に立たなかった

冬は逆に、意外と耐えられます。着込めばいいからです。タオルケット、毛布、寒い時期は寝袋か布団まで持ち込む。装備を足せば解決する方向なので、対処が単純です。

車中泊の敵は寒さではなく暑さであることを示す図解 夏は覚醒が増え深い眠りとレム睡眠が減り装備を足しても解決しないが、冬は寝具と衣類があれば睡眠段階は変わらず着込めば足りる 夏にぶつかる3つの壁は風が入らない・虫が入る・防虫ネットが車種に合わない ヤマカルテ

ポータブル電源という解き方

夏の熱こもりに対して、いちばん現実的な答えは空気を動かすことです。そしてそのためには電源が要ります。

ここで注意したいのが、エンジンをかけっぱなしにしてエアコンで解決しようとしないことです(後述します)。エンジンを止めたまま扇風機を回すには、ポータブル電源が必要になります。

正直に書くと、私はまだポータブル電源を持っていません。毎年の夏、窓の開け方を工夫してしのいできました。ただ、次に買うならここを見る、という基準はできています。

  • 容量:小型扇風機を一晩動かすだけなら、そこまで大きくなくても足ります。電気毛布まで使うなら容量が要ります
  • 静かさ:冷却ファンの音が大きいと本末転倒です。寝るために買うので、動作音は必ず確認します
  • 重さ:車に積みっぱなしにできるかどうか。登山口までの林道が長い車なら、積載も考えます

ポータブル電源としてよく名前が挙がるのがJackeryで、容量の選択肢が広く、車中泊で使っている人が多いシリーズです。私が使ってからでないと踏み込んだ評価は書けませんが、夏の車中泊で電源を持つかどうかは、眠れるかどうかに直結するとは言えます。

寝床のつくり方

やっていることは単純です。後席を倒してフラットにする。これが基本形です。

登山口での車中泊の寝床 後席を倒してフラットにし毛布を敷いた車内 足元に登山用ザックとカメラ

季節で足すものを変えています。

  • :軽いタオルケット程度
  • 春秋:毛布
  • :寝袋、または布団まで持ち込む

腰が気になる日は、敷布団を持ち込んだこともあります。これが実はいちばん効果的でした。車のシートは倒しても完全な平面にはならず、段差やわずかな傾斜が残ります。そこを埋められるかどうかで、腰と背中の疲れが変わります

車中泊の寝床のつくり方を示す図解 倒した後席の段差をそのままにすると腰が浮くが敷布団を入れると平らになる、枕を高く積みすぎると首が前に曲がったままになりあお向けで天井をまっすぐ見られる高さが目安 ヤマカルテ

光と音を、どう遮るか

駐車場は思ったより明るく、うるさい場所です。街灯、トイレの明かり、後から来る車のヘッドライト。私が使っているのは次の組み合わせです。

  • フロントガラス:車種専用の目隠し
  • サイドとバックの窓マグネット付きの黒いUVカーテン。車の金属部分に直接くっつける
  • 金属部分がない箇所100円ショップのマグネットシールを車側に貼っておく。これでカーテンが留まる

最後の工夫は地味ですが、実用的です。窓枠は樹脂の部分があり、そのままではマグネットがくっつきません。先に貼っておけば、毎回すぐ設置できます

車中泊の目隠しを窓の場所で使い分ける図解 フロントガラスは車種専用の目隠し、サイドとバックの窓はマグネット付きの黒いUVカーテン、金属がない場所は100円ショップのマグネットシールを先に貼っておく ヤマカルテ

光については、もう1つ足しておきます。就寝前のスマートフォンです。Randjelovićらの研究では、夜間にスマートフォン画面の青い光を減らしただけで、主観的な睡眠の質を示すスコアが6.83から3.93まで改善しました[6]

車内では手持ち無沙汰でスマホを見がちです。翌日の地図確認は、寝る前ではなく夕方までに済ませておく。それだけで違います。

寝過ごしを防ぐ

失敗談を1つ書きます。

あかんだな駐車場のゲート前で待機していたときのことです。20分ほど寝過ごしました。目が覚めたら、後続の車がみんな私の車を避けてゲートへ入っていったあとでした。

幸いスペースのあるゲート前だったので実害は出ませんでしたが、狭い場所だったら明らかに迷惑をかけていました。列を塞いだまま眠っている車は、後ろから見ればただの障害物です。

対策は単純です。

  • アラームは2つ以上、離れた場所に置く。手元で止めて二度寝するのを防ぐ
  • ゲート前で待つ日は、開放時刻の30分前に1回目を鳴らす。身支度の余裕を持つ
  • 列に並んでいるときは、深く寝ない前提で考える。本気で眠るなら、列ではなく駐車スペースに入れる

ゲート前で寝過ごすと後続の車が困ることを示す図解 20分寝過ごした先頭の車を後続が避けてゲートへ入っていく 防ぐ段取りはアラームを2つ以上離して置く・1回目は開放時刻の30分前・列では深く寝ない ヤマカルテ

エンジンをかけたまま寝ない

最後に、安全とマナーの話です。これだけは例外なく守ってください。

  • 一酸化炭素中毒の危険がある。とくに積雪期、マフラーの排気口が雪でふさがれると、排気ガスが車内に回り込みます。眠っている間に進行するため、気づけません
  • 騒音になる。深夜の駐車場でエンジンとエアコンの音は、周囲の車の睡眠を奪います
  • 排気ガスが隣の車に入る。窓を開けている車がいれば、直接迷惑がかかります

エンジンをかけたまま寝てはいけない3つの理由を示す図解 積雪期は排気口が雪でふさがれ一酸化炭素が車内に回り込み眠っている間に進むので気づけない、深夜のエンジンとエアコンの音が周りの車の睡眠を奪う、排気ガスが窓を開けている隣の車に入る ヤマカルテ

夏の暑さをエンジンで解決しようとすると、この3つ全部に触れます。エンジンを止めたまま夜を越せる用意をする——ポータブル電源が現実的な選択肢になるのは、この点においてです。

登山口の駐車場は、翌朝一緒に山へ入る人たちが眠っている場所でもあります。山小屋やテント場と同じ、静かに過ごすことが登山者として守るべきマナーです。

まとめ:前泊の質は、停める場所で半分決まる

  • 睡眠不足の影響は平均7.56%。一貫して悪いのは徹夜と、いつもより早く起きるパターン[1]
  • それでも早出早着は動かさない。午後の雷雲と日没が優先。縮めるのは起きてから歩き出すまでの時間
  • そもそも車中泊しない選択は、もっと朝を削る。自宅から向かえば真夜中出発になり、深夜運転のリスクも乗る
  • 午前はほとんど影響が出ず、午後に一貫して低下する。覚醒1時間ごとに約0.4%。登りではなく下りに出る[1][2]
  • 持久系は30分を超える運動ほど影響が大きい[3]。判断力も遅く不正確になる[4]
  • 前泊地は「登山口の駐車場」か「ゲート前」かで難易度が変わる。後者は暑く、起床時刻が固定され、起きてすぐ運転が必要。選べないが、計画段階で先に分かる
  • 夏の敵は暑さ。寝具があれば寒さは対処できるが、暑さは睡眠そのものを削る[5]。空気を動かす手段を用意する
  • 後席をフラットにして、段差を埋める。頭を高くしすぎない
  • 目隠しはマグネット+100均のマグネットシールで毎回すぐ設置できる
  • アラームは2つ以上。列に並ぶ日は深く寝ない
  • エンジンをかけたまま寝ない。一酸化炭素・騒音・排気の3点で問題になる

車中泊は、登山の一部です。前夜をどう過ごしたかが、翌日の午後にそのまま出てきます。

次の前泊では、まず自分がどちらのパターンかを地図で確かめてみてください。停める場所は選べなくても、先に分かっていれば備えられます。そこから先の工夫は、この記事のどれか1つを試すところから始めれば十分です。

参考文献

  1. Craven J, McCartney D, Desbrow B, Sabapathy S, Bellinger P, Roberts L, Irwin C. 2022. Effects of Acute Sleep Loss on Physical Performance: A Systematic and Meta-Analytical Review. Sports Medicine.
  2. Gong M, Sun M, Sun Y, Jin L, Li S. 2024. Effects of Acute Sleep Deprivation on Sporting Performance in Athletes: A Comprehensive Systematic Review and Meta-Analysis. Nature and Science of Sleep.
  3. Lopes TR, Pereira HM, Bittencourt LRA, Silva BM. 2023. How much does sleep deprivation impair endurance performance? A systematic review and meta-analysis. European Journal of Sport Science.
  4. Fullagar HH, Skorski S, Duffield R, Hammes D, Coutts AJ, Meyer T. 2015. Sleep and athletic performance: the effects of sleep loss on exercise performance, and physiological and cognitive responses to exercise. Sports Medicine.
  5. Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. 2012. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm. Journal of Physiological Anthropology.
  6. Randjelović P, Stojanović N, Ilić I, Vučković D. 2023. The effect of reducing blue light from smartphone screen on subjective quality of sleep among students. Chronobiology International.