しばらく使われずに置かれた登山靴とザックの水彩画 登山ブランクで筋肉と持久力がどこまで落ちるかを理学療法士が解説 ヤマカルテ

「久しぶりに山に行きたいけど、ブランクがあるから不安」 「1年以上山から離れていたら、筋肉や体力ってどれくらい落ちているんだろう?」

子育てや仕事で山から遠ざかってしまった方の多くが、こんな不安を抱えていると思います。私自身、140座以上を登った後に子育てでブランクに入り、まったく同じ気持ちで日々を過ごしています。

結論からお伝えすると、運動を完全にやめると、数週間で持久力が落ち始め、数か月でかなりの低下、1年で多くの適応が失われます。少し厳しい話に聞こえるかもしれませんが、これは研究で繰り返し示されてきた事実です。

「筋肉が落ちていないか」が気になる方へ、落ちる順序を先にお伝えします。まず持久力が早ければ2週間から落ち始め、次に筋力が6週間で約15%低下し、筋肉そのものが減るのは12週以降というのが研究の示す順序です。久しぶりの山で最初にこたえるのは、筋肉よりも心肺のほうだということです。

ただし、これを正しく知ることが、安全に山へ戻る第一歩になります。本記事では、理学療法士(PT)として10年以上臨床に携わってきた立場から、研究データをもとに「筋肉と体力がどれくらい落ちるのか」と「復帰の目安」をお伝えします。

剱岳を背景に稜線を歩く登山者 北アルプス登山の記録

この記事は育児ブランクからの登山復帰 完全ロードマップPhase 0|現在地を知る にあたります。復帰の全体像から確認したい方は、先にロードマップへどうぞ。

体力は「持久力」と「筋力」で落ち方が違う

登山に必要な体力は、持久力と、筋肉・筋力の2つに分かれます。落ちる速さはそれぞれ違い、持久力は2週間、筋力は6週間、筋肉そのものは12週以降から落ちていきます。

体力をひとくくりに語れないのは、このためです。内訳は次のとおりです。

  • 持久力:長時間歩き続けるための能力。心肺機能やVO2maxで測られる
  • 筋肉・筋力:登り降りで踏ん張る力と、それを生み出す筋肉そのもの

なお本記事では、筋肉はその量や大きさのこと、筋力はそこから発揮できる力のこと、として使い分けます。研究でも別々に測られていて、落ちるタイミングが少しずつ違うためです。

研究を見ると、この2つは落ちるスピードがまったく違います。これを知らないと、復帰時に「持久力ばかり鍛えて筋力不足で膝を痛める」といった失敗につながるかもしれません。

持久力は2週間で落ち始める

持久力は、運動をやめてから約2週間で落ち始めます。体力のなかで最も早く落ちるのが持久力です。

よく訓練されたランナーが運動を停止した研究では、わずか14日でVO2max(最大酸素摂取量)が約4%低下しました。さらに別のレビューでは、12週間(約3か月)で最大20%低下したという結果も報告されています[1]。もちろん一般登山者の場合はこの数字がそのまま当てはまるわけではありませんが、傾向としてトレーニングをやめると持久力は落ちるというのは、直感的にも理解しやすいと思います。

20%という数字を登山で考えてみてください。これまで6時間で登れた山が、同じ感覚で歩くと7〜8時間かかる計算になります。標高の高い山であれば、酸素の薄さも相まって、想像以上にきつく感じるはずです。

「久しぶりの山で予想以上にバテた」という経験は、身体の仕組みとしてそうだからなのです。

持久力は運動中止から14日でVO2max約4%低下、12週間で最大20%低下するタイムライン ヤマカルテ

筋肉と筋力は持久力より粘るが、数か月で確実に落ちる

筋力は運動をやめてから約6週間で下肢筋力が約15%低下し、筋肉そのものが有意に減るのは12週以降です。持久力ほど早くは落ちませんが、数か月あれば筋肉も筋力も確実に落ちます。

先に落ちるのは筋力のほうです。研究では、6週間のデトレーニング(トレーニングの中止)で下肢筋力とジャンプ能力が約15%低下したと報告されています[2]。少し遅れて筋肉そのものも減っていき、12週〜1年のトレーニング中止で筋肉量が有意に減少することが示されています[3]

つまり「筋肉が落ちた」と感じる前に、まず力が出なくなるということです。見た目が変わっていないから大丈夫、とは言えません。

登山では、特に降りで筋力を使います。筋力が落ちた状態で長い降りに入ると、膝のクッションが効かず、痛みや故障のリスクが一気に上がります。

筋力は運動中止から6週間で下肢筋力・ジャンプ力が約15%低下、12週〜1年で筋肉量が有意に減少するタイムライン ヤマカルテ

1年ブランクで「残っているもの」と「消えているもの」

高齢女性を対象にした1年間の追跡研究では、1年のブランクで下肢筋力と主観的な身体機能はほぼ失われる一方、バランス能力は半分ほど、骨強度は一部が残っていました[4]

登山ブランク1年後に残るもの(バランス能力・骨強度の一部)と消えるもの(下肢筋力・主観的身体機能)の比較 ヤマカルテ

同じ研究で報告された内訳は、次のとおりです。

1年後も残っていたもの

  • バランス能力(半分ほど残存)
  • 骨強度の一部

1年後にほぼ消えていたもの

  • 下肢筋力
  • 主観的身体機能

つまり、筋力や心肺機能はかなり落ちてしまう一方、バランス感覚や骨の強さはある程度残るということです。

これは登山者にとって少し希望のある話でもあります。「身体の使い方」や「足の置き方」といった運動スキルは比較的残りやすいため、ゼロからのスタートではないのです。

PTが提案する復帰の目安

ブランクが1年以上ある場合の復帰は、ブランク前のコースタイム・標高差ともに半分以下から始め、3〜6か月かけて段階的に戻すのが目安です。理学療法士として私が提案する4つのステップは、次のとおりです。

PTが提案する登山復帰の4ステップ 半分以下から・平地の歩行から・登りで様子を見る・焦らず3〜6か月 ヤマカルテ

1. 最初の山は「半分以下」を目安に

ブランク前に歩けていたコースのコースタイム・標高差ともに半分以下から始めましょう。研究データから考えても、20%以上の体力低下は当然と捉えるべきです。

2. 平地での歩行から始める

いきなり山に行くのではなく、まずは平地で1時間連続して歩ける状態を作ります。これすらきつければ、心肺機能の回復から優先しましょう。歩く習慣がなかなか続かない人は、街歩きを楽しくする工夫として登山に戻る最初の一歩|カラーハンティングで続くウォーキングも参考にしてみてください。

平地から低山への足慣らしでは、重い登山靴より軽量なトレラン/ハイキングシューズのほうが身体への負担が少なくおすすめです。足首の自由度が高い靴のほうが、ふくらはぎの筋力をフルに使って歩けるため、ブランク明けの歩く力を取り戻すフェーズに向いています。最初から本格的な登山靴で重さに慣れる必要はありません。とはいえ山に戻る段階では靴が変わります。足首の支え・重さ・サイズの考え方は登山靴の選び方にまとめました。

3. 降りより登りで様子を見る

降りは筋力が必要で故障リスクが高い動作です。最初の数回は下山が短い山やロープウェイで降りられる山を選ぶと安全です。

下山時の膝への不安が大きい方は、膝サポーターを一つ持っておくと安心感が違います。ただし道具に頼る前に、まず大切なのは膝を痛めない歩き方です。下りで膝を守る着地と筋力の使い方は登山の「下り」で膝を守る歩き方で、膝痛を未然に防ぐ基本は登山で膝が痛くなる前に知っておきたい3つのことで詳しく解説しています。サポーターのタイプの違いや選び方は登山の膝サポーターの選び方にまとめています。

4. 焦らない。3〜6か月かけて戻す

研究上、運動再開すれば持久力も筋力も必ず回復します。ただし、落ちる速度より戻る速度のほうがゆっくりです。3〜6か月かけて段階的に戻すくらいの心づもりが現実的です。

3〜6か月と言われても、具体的に何週目に何をすればいいのかは見えにくいところです。目標の山から逆算するトレーニングプランナーに登りたい山と予定日を入れると、ブランクの長さを踏まえた週ごとの計画と、間に合わないときに先に登っておく中間の山が出ます。

復帰のプロセスは「数値で見える化」すると継続しやすくなります。GPSウォッチやスマホアプリで歩いた距離・時間・心拍を記録しておくと、「先月より長く歩けた」「同じコースが短時間で済むようになった」と進歩が目に見えて、モチベーションの支えになります。どの機種で何が測れるかは登山ウォッチおすすめ比較で比べています。

何を、どの順番で、どれくらい積み上げればいいのか——具体的な中身は、姉妹記事登山復帰に向けてPTが自分に処方する「トレーニングプログラム」3本柱にまとめています。下半身筋力・傾斜持久力・山歩きの3本柱で、自宅からでも始められる内容です。

その中身が分かっても家では手が動かない、という方は登山の自宅トレーニングが続かない人へもどうぞ。落ちた体力を戻すうえで差がつくのは、強度より切らさないことです。

まとめ:正しく知れば、不安は減らせる

最後に振り返ります。

  • 持久力は2週間で落ち始め、3か月で最大20%低下する
  • 筋力は6週間で約15%低下し、筋肉そのものも12週以降に減っていく。1年経つと下肢筋力はかなりの部分が消える
  • ただしバランス感覚や運動スキルは残りやすい
  • 復帰はブランク前の半分以下から、3〜6か月かけて段階的に

ブランク中の身体は、自分が思っているより確実に変わっています。でも、変わり方を知っていれば、対策ができます。「歳のせい」「もう戻れない」と諦める必要はまったくありません。

そして登山を始めた頃のように、簡単な山から少しずつステップアップしていけば、登山を楽しみながらブランクを取り戻せるのです。

正しく知って、正しく戻る。私自身も同じ道を歩いています。一緒に少しずつ、また山に戻っていきましょう。

体力の不安だけでなく、子育てなどで行けないこと自体への焦りや罪悪感がつらいときは、子育て中で登山に行けない…そんな私が考えていることも気持ちの整理に役立つかもしれません。


続けて、ブランク明けの身体を山に慣らすための「自宅でできる体力回復プログラム」を、PTが自分自身に処方している内容としてまとめた登山復帰に向けてPTが自分に処方する「トレーニングプログラム」3本柱もぜひ読んでみてください。ここで知った「落ち方」を、次は「戻し方」につなげていきましょう。

参考文献

  1. Houmard et al., 1992. Effect of Short-Term Training Cessation on Performance Measures in Distance Runners. International Journal of Sports Medicine.
  2. Kalapotharakos et al., 2007. The Effect of Moderate Resistance Strength Training and Detraining on Muscle Strength and Power in Older Men. Journal of Geriatric Physical Therapy.
  3. Grgic, 2022. Use It or Lose It? A Meta-Analysis on the Effects of Resistance Training Cessation (Detraining) on Muscle Size in Older Adults. International Journal of Environmental Research and Public Health.
  4. Karinkanta et al., 2009. Maintenance of exercise-induced benefits in physical functioning and bone among elderly women. Osteoporosis International.