登山用ヘッドランプの選び方 明るさ・配光・電源・重心・防水・赤色灯の基準を理学療法士が解説 ヤマカルテ

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ヘッドランプを探し始めると、最初に目に入るのは「最大◯◯ルーメン」の数字ではないでしょうか。数字が大きいほど良さそうに見えて、でも値段も上がる。どこで線を引けばいいのか分からないまま、比較サイトを何周もしてしまう。

先に結論を書きます。最大ルーメンの数字だけで決めないでください。同じ明るさでも、足元まで広く照らせるかどうかで歩きやすさは変わります。見るべきは配光・電源・重心・防水・赤色灯の5つです。

私は理学療法士(PT)として臨床経験10年以上、山は140座以上を歩いてきました。テント泊は27泊。日没後の樹林帯を2時間以上、灯りだけを頼りに下ったこともあります。この記事は、そのときに何が起きたかと、暗いところを歩く体について分かっている研究をあわせて書きます。

読み終えるころには、店頭で数字に迷わなくなります。そして「暗くなってから歩く2時間」を、落ち着いて歩けるようになります。

ヘッドランプは「もしも」の道具ではない

2020年8月、私は北アルプスの鷲羽岳・水晶岳を初めてのテント泊で歩きました。2日目に26.9km、下り2,970m。下山したのは21時20分でした

19時を過ぎると完全に暗くなり、そこから2時間以上をヘッドランプの灯りだけで下りました。木の根と石がひたすら続く小池新道です。しかも遠くから雷鳴が聞こえていました。詳しい経緯は鷲羽岳・水晶岳のテント泊で下山21時20分になった話に書いています。

このとき私が痛感したのは、ヘッドランプは予備の道具ではなく、行動を続けるための道具だということでした。ザックの底で眠っていて、いざというときに出す物ではありません。計画が1時間ずれれば、日帰りの山でも普通に使うことになります。

暗いと、同じ道でも体力が余計に減る

見えないと、同じ道を同じ速度で歩くだけで、体は余分にエネルギーを使います。 完全な暗闇では酸素摂取量が明所より20%多くなり、歩幅は9%短くなったと報告されています。

Norrbrandらは、健康な男性11名にトレッドミル(傾斜2.3度・時速4km)を歩いてもらい、4つの条件で酸素摂取量と歩き方を比べました[1]。明るい実験室で歩いた条件、目隠しで完全な暗闇の条件、そして暗視ゴーグルで視野を約40度に絞った条件です。

結果はこうでした。

  • 完全な暗闇では、酸素摂取量が明所より20%多くなった
  • 歩幅は9%短くなった
  • 視野を40度に制限した暗視ゴーグルの条件は、明所と暗闇のちょうど中間に位置した

障害物のない、完全に予測できる平坦なベルトの上での話です。それでもこれだけ差が出ました。著者らは、中心視だけでなく周辺視も歩行の効率を保つのに重要な役割を果たすと結論づけています。

暗いと同じ道でも余計に消耗することを示す図解 健康な男性11名のトレッドミル比較で完全な暗闇は酸素摂取量が明所より20%多く歩幅は9%短い、視野を40度に制限した条件は歩幅が6%短い ヤマカルテ

別の研究では、若年男性14名が10ルクス未満の低照度で歩いたとき、歩行速度が落ち、遊脚期のつま先の高さが上がりました[2]。つまずかないように、足を高く上げて慎重に運んでいます。理にかなった反応ですが、そのぶんエネルギーを使います

ルーメンとルクスの違いを示す図解 ルーメンはランプが出す光の総量でカタログ値、ルクスは照らされた面が受ける明るさで離れるほど小さくなる、同じルーメンでも狭く集めるか広く配るかで足元のルクスは変わる ヤマカルテ

ヘッドランプ選びの5つの基準

カタログには数えきれないほどの項目が並びますが、山で効いてくるのは次の5つです。まず全体像から見てください。

ヘッドランプ選びの5つの基準の図解 配光は足元まで広く照らせるか、電源は山行の長さで選び分ける、重さと重心は重心がどこにあるか、防水はIPX4が最低ライン、赤色灯は小屋泊とテント泊で価値が出る ヤマカルテ

①明るさより配光──足元まで広く照らせるか

最大ルーメンの数字は、カタログの見出しとしては便利ですが、選ぶ基準としては弱いです。理由は3つあります。

第一に、最大出力は数十分から数時間しか持ちません。実際に歩きながら使うのは、最大ではないひとつ下のモード(中間出力)です。第二に、明るすぎる光は手前の白飛びを起こし、かえって段差が見えにくくなります。第三に、これがいちばん大事なのですが、同じルーメンでも、光をどこに配るかで歩きやすさが変わります。この「光がどれくらい広がるか」を配光と呼びます。

前の章の研究を思い出してください。暗視ゴーグルで視野を40度に絞った条件では、歩幅が明所より6%短くなりました[1]。一方で酸素摂取量は明所とも暗闇とも統計的な差が出ておらず、視野が狭まるだけで消耗が増えると言い切れるわけではありません。それでも、見える範囲が狭まると歩き方が変わることは示されています。

遠くだけを細く照らすスポット配光は、見える範囲を自分から狭めることになります。

登山道で必要なのは、次の一歩を置く場所と、その少し先です。足元を含めて広く照らせるワイド配光があるかどうかを見てください。スポットとワイドを切り替えられる、あるいは両方を同時に出せるモデルなら、道探しと歩行を使い分けられます。

私自身、この切り替えは暗い時間帯にいちばん使う機能です。普段はワイドにして、足元から周辺の視野まで確保したまま歩く。分岐や道が分かりにくいところに来たら、いったん立ち止まってスポットに切り替え、登山道の先がどこへ続いているかを確認する。確認できたらワイドに戻して歩き出す。この行き来を繰り返しています。

ポイントは立ち止まって切り替えることです。歩きながら遠くを照らそうとすると、足元が見えない時間ができます。道を確かめる作業と、足を運ぶ作業は分けてください。

実用的な目安として、樹林帯の登山道を歩くなら中間出力で100〜200ルーメン程度あれば足ります。それ以上は、道を探すときや広い斜面で使う一時的な出力だと考えてください。この数字も配光しだいで体感が変わるので、あくまで目安です。

スポット配光とワイド配光の違いと使い分けの図解 スポットは遠くは届くが足元と周辺が見えない、ワイドは足元から周辺まで見える、歩くときはワイド・分岐では立ち止まってスポット・ワイドに戻して歩き出す ヤマカルテ

②電源──乾電池・充電式・ハイブリッド

3つのタイプがあり、どれが正解かは山行の長さで変わります。ハイブリッドとは、充電池と単3形などの乾電池のどちらでも動くタイプのことです。

タイプ強み弱み向く山行
乾電池式現地で交換できる。予備の入手が容易かさばる。使用中の残量が読みにくい長期の縦走・海外・寒い時期
充電池式(USB)軽い。残量表示が分かりやすい山中で切れたら復旧できない日帰り・1泊
ハイブリッド充電池が切れても乾電池で継続できる本体がやや重く、価格も上がる迷ったらこれ

充電池だけのモデルで長い縦走に入るなら、予備の電源を必ず確保してください。モバイルバッテリーで充電する手はありますが、その電力はスマホと取り合いになります。地図アプリを使うなら、なおさらです。

寒さについても触れておきます。一般にアルカリ乾電池は低温で性能が落ちやすく、使い切りのリチウム乾電池は低温に強いとされます。ここで紛らわしいのですが、使い切りの「リチウム乾電池」と、繰り返し充電して使う「リチウムイオン充電池」は別物です。充電池のほうも冷えると使える容量が減り、機種によっては低温での充電に制限があります。厳冬期や高所で使うなら、製品ごとの動作温度と充電温度をメーカーの公表値で確認してください。

③重さと重心──首の負担は重さだけでは決まらない

ここはPTとして一言添えたいところです。カタログには総重量しか書かれていませんが、首が感じる負担は、重さと「重心がどこにあるか」の掛け算で決まります

米陸軍の研究では、兵士が頭に装備を載せて障害物走を行ったとき、性能の低下は総重量そのものではなく、環椎後頭関節(頭が背骨に乗る支点)まわりのウェイトモーメントとよく対応しました[3]。ウェイトモーメントとは、重さに支点からの距離を掛けた値です。同じ重さでも、重心が前に離れるほど負担が大きくなります

ただし正直に書くと、この研究が扱っているのはヘルメット込みでキログラム級の装備です。ヘッドランプは数十グラムから150グラム程度で、重さのレベルが大きく異なります。数値をそのまま当てはめることはできません。使えるのは原理のほうです。

その原理から言えるのは、こういうことです。

  • バッテリーが前面にある一体型は、軽くても重心が前に出る。長時間つけていると額のバンドが食い込みやすい
  • バッテリーを後頭部に置く別体型は、同じ総重量でも前後のつり合いが取れる。重いモデルほど、この差が体感に出る
  • ヘルメットと併用するなら、バンドがヘルメットの上を通せる形状かを確認する

50グラム台の軽量モデルなら一体型でも問題は出にくいです。長時間つけるつもりなら、店頭で試着して前後のバランスとバンドの当たりを確かめてください。カタログの総重量だけでは分かりません。

ヘッドランプの重心と首の負担を示す図解 バッテリーが前面の一体型は重心が額の前に出て首の後ろの筋肉が働き続け額に圧が集中、バッテリーが後頭部の別体型は重心が頭の中央で前後のつり合いが取れる ヤマカルテ

④防水と寒さ

防水性能は IP の等級で確認してください。日本の夏山で雨に降られる前提なら、IPX4(あらゆる方向からの飛沫に耐える)が最低ラインです。沢や豪雨、渡渉のある山行では、より高い等級のものを検討してください。

数字の読み方に、まぎらわしい点が2つあります。ひとつは、IPX7(規定条件での一時的な水没に耐える)が IPX6(強い噴流水に耐える)を自動的に含むわけではないこと。もうひとつは、「X」が防塵性能を評価していないという意味で、防塵が弱いという意味ではないことです。等級の名前だけで判断せず、自分の山行に必要な条件をメーカーの仕様で確かめてください。

登山用として売られているモデルの多くは IPX4 以上を満たしています。問題になるのは、普段使い用の安価なライトを流用したときです。雨のなかで消えるライトほど怖いものはありません。

雪や氷点下で使うなら、もうひとつ確認してほしい点があります。手袋をしたままスイッチを操作できるかです。厚い手袋では、小さなボタンや細かい長押しの操作はまず失敗します。日没後に手が冷えた状態で操作することを想像しながら選んでください。

⑤赤色灯──小屋泊とテント泊で差が出る

赤色灯に切り替えられるかどうかは、山小屋泊とテント泊で価値が変わります。理由は2つあり、どちらも根拠があります。

ひとつは、周りの人の睡眠を邪魔しにくいこと。Brainardらは健康な72名に深夜に単色光を当てる試験を627回行い、446〜477ナノメートル(青い領域)の光が最もメラトニンを抑えると特定しました[5]。Thapanらの独立した研究もほぼ同じ結果です[6]。裏を返せば、波長の長い赤い光は、同じ明るさでも体内時計への影響が小さいということです。ただしこれは色の話で、明るさは別問題です。赤くても強い光を人の顔に向ければ、相手は起きます。赤色灯・低い出力・足元へ向ける。この3つをセットにして、はじめて配慮になります。

もうひとつは、自分の暗順応を保てること。白色灯を一度つけると、目が暗さに慣れ直すまで時間がかかります。

ただし、赤色灯には使いどころの限界があります。Van Burenらは30名を対象に、さまざまな色の照明下で視機能を測りました[7]赤・緑・青の単色光では、白色光と比べてコントラスト感度が有意に低下しました。登山地図の読みやすさを直接調べた研究ではありませんが、色分けや細かい起伏が判別しにくくなる可能性は考えておいたほうがよさそうです。

赤色灯は、周りを起こさずに手元を確認するための機能だと考えてください。地図をしっかり読む、細かい作業をする、道を探す——こうした場面では白色灯へ切り替えます。

用途別の選び分け

5つの基準を、実際の山行に落とすとこうなります。

用途別ヘッドランプの選び分けの図解 日帰り登山は50〜80グラム台の一体型、山小屋泊とご来光は赤色灯つき、テント泊とロングコースはハイブリッド電源と広めの配光、子連れ登山は軽さと操作の単純さ ヤマカルテ

日帰り登山(保険として持つ) 軽さを優先して構いません。50〜80グラム台の一体型・充電池式で十分です。ただし「使わない前提」で選ばないこと。中間出力で足元が広く照らせるかは確認してください。

山小屋泊・ご来光狙い 赤色灯つきを強く勧めます。深夜に起きて支度をする場面が必ず来ます。電源は充電池でも足りますが、出発前に満充電にしておくこと。持ち物全体は富士山の持ち物リストを参照してください。

テント泊・ロングコース ハイブリッド電源+広めの配光が候補になります。2泊以上なら、電池が切れたときの復旧手段を用意しておきたいところです。重量が増えるので、バッテリー別体型で重心を後ろに逃がす形が快適です。私が下山21時20分になった山行は、まさにこの条件でした。

子連れ登山 子ども用は軽さと、操作の単純さを最優先に。ボタンひとつで点くものがいいです。あわせて、親が子の足元を照らせる配光を持っておくと安心できます。子どもは大人より歩幅が小さく、同じ段差でも影響が大きいからです。

私が使っているもの

物を増やすより、少ない道具を使い切るほうが山では楽です。私が実際に使い続けているのは2つだけです。

行動用|LEDLENSER MH5

赤色灯に切り替えられるので、山小屋やテント場で周りを起こしにくい。白色灯は焦点を調整できて、広く照らす使い方と遠くを見る使い方を切り替えられます。電源は充電池(14500リチウムイオン)と単3形乾電池の両対応で、山中で充電池が尽きても予備の単3形に入れ替えれば行動を続けられます。重さは94g、防水防塵はIP54です。

この記事で挙げた基準のうち、配光・電源・赤色灯の3つに当てはまります

テント内|キャリー・ザ・サン(ソーラーLEDランタン)

テントの中でヘッドランプを使うと、向いた方向しか明るくならず、同行者の顔を直撃します。折りたたみのソーラーランタンを1つ吊るすと、テント内全体がやわらかく照らされます。

日中はザックの外に付けておけば充電されるので、電池を消費しません。ヘッドランプの電池を温存できるのが、地味ですが大きい利点です。畳めば手のひらサイズになり、重さもほとんど気になりません。

行動はヘッドランプ、テント内はランタン。この使い分けにしてから、テント泊の夜が快適になりました。

買ったあとにやること

道具は買った時点では半分です。残りの半分は、使う前の習慣で決まります

  • 保管中は電池を抜く。液漏れで端子が腐食すると、いざというときに点きません。充電池式なら3か月に一度ほど充電する
  • 出発前に必ず点灯を確認する。全ての出力モードと、赤色灯まで一度切り替える。ザックに入れる直前がおすすめです
  • 予備電池は毎回入れる。使い切ったら補充するのではなく、山行ごとに残量を確認する
  • ロック機能を使う。ザックの中で勝手に点灯していて、着いたら空だったという失敗はよくあります
  • バンドは緩めて保管する。伸びたゴムは、頭の上でずれ続けます

まとめ:数字ではなく、暗い道での使われ方から選ぶ

  • 最大ルーメンの数字だけで決めない。実際に使うのは中間出力で、樹林帯なら100〜200ルーメン程度が目安になる
  • 配光がいちばん重要。見える範囲が狭まると歩き方が変わる[1]。足元まで広く照らせるかどうかを見る
  • 電源は山行の長さで決める。2泊以上ならハイブリッドが検討しやすい。充電池だけで長い縦走に入るなら予備の電源を確保する
  • 重さより重心。長時間使うなら試着して前後のバランスとバンドの当たりを確かめる
  • 防水は IPX4 が最低ライン。IPX7 が IPX6 を含むわけではない点にも注意。手袋をしたまま操作できるかも確認する
  • 赤色灯は小屋泊・テント泊で価値が出る。赤くても強い光は迷惑になるので、低い出力で足元へ向ける。地図読みや道探しは白色灯に切り替える
  • 買ったあとが本番。電池を抜いて保管し、出発前に必ず点灯を確認する

暗くなってから歩く時間は、多くの人にとって「起きてほしくない事態」です。けれど実際には、計画が1時間ずれれば普通に起こります。

そのときに手元が広く明るいかどうかで、残り2時間の消耗も、判断の落ち着きも変わります。数字の大きさではなく、暗い道でどう使われるかを想像して選んでみてください。次の山行では、日没が少しだけ怖くなくなるはずです。

参考文献

  1. Norrbrand L, Grönkvist M, Kounalakis S, Halvorsen K, Eiken O. 2023. Metabolic Demands and Kinematics During Level Walking in Darkness With No Vision or With Visual Aid. Military Medicine.
  2. Choi JS, Kang DW, Shin YH, Tack GR. 2014. Differences in gait pattern between the elderly and the young during level walking under low illumination. Acta of Bioengineering and Biomechanics.
  3. Madison AM, Holderfield MR, Olszko AV, et al. 2023. Preliminary Head-Supported Mass Performance Guidance for Dismounted Soldier Environments. Military Medicine.
  4. Le P, Weisenbach CA, Mills EHL, Monforton L, Kinney MJ. 2023. Exploring the Interaction Between Head-Supported Mass, Posture, and Visual Stress on Neck Muscle Activation. Human Factors.
  5. Brainard GC, Hanifin JP, Greeson JM, et al. 2001. Action spectrum for melatonin regulation in humans: evidence for a novel circadian photoreceptor. The Journal of Neuroscience.
  6. Thapan K, Arendt J, Skene DJ. 2001. An action spectrum for melatonin suppression: evidence for a novel non-rod, non-cone photoreceptor system in humans. The Journal of Physiology.
  7. Van Buren JP, Wake J, McLaughlin J, LaPorta AJ, Enzenauer RW, Calvano CJ. 2018. Optimizing Tactical Medical Performance: The Effect of Light Hue on Vision Testing. Journal of Special Operations Medicine.